コラム

極右がいまさら「ユダヤ人差別反対」を叫ぶ理由──ヘイトを隠した反ヘイト

2023年11月21日(火)17時05分

さらにルペンは、ロシアのプーチン大統領と親交が深いことでも有名だ。プーチン体制のもとでは外国人、異教徒、同性愛者といった少数者に対する差別やヘイトが絶えず、そのなかにはユダヤ人も含まれる。

その一方で、プーチン率いるロシアは欧米の極右から「白人キリスト教国の伝統を守る国」とみなされている。だからこそ、極右政党はウクライナ侵攻をめぐるロシア制裁に消極的で、国民連合もその例に漏れない。

そのルペンがユダヤ人差別に抗議するデモに参加したことには、「自分たちは差別的でない」というイメージ戦略があると指摘される。

フランス・ユダヤ人団体評議会のアルフィ議長はルペンが「政治的な目的のためにデモを利用しようとしている」と批判した。

差別反対ウォッシュだけではない

もっとも、このタイミングで「ユダヤ人差別反対」をアピールする極右はルベンや国民連合だけではない。

イスラエルとハマスの戦闘が激化するなか、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が「反ユダヤ主義の流入」に反対する声明を出した他、やはり極右とみなされるイタリアのメローニ首相もユダヤ系団体の代表とユダヤ人差別について協議している。

極右がユダヤ人差別に反対するのは、イメージ改善の他に大きく二つの理由が見出せる。

第一に、ユダヤ人コミュニティを味方につけて「共通の敵はイスラーム」というイメージ化を進めることだ。

国民連合をはじめとする極右は、イスラーム組織ハマスとの戦闘に関してイスラエルの立場をほぼ全面的に支持している。

欧米の極右にとってムスリムは現在も主な標的だ。例えばフランスでは6月、アラブ系青年が警官に銃殺されたことをきっかけに大規模なデモが広がったが、極右勢力は警察による「違法行為の取り締まり」をむしろ支持した。

また、スウェーデンでは昨年の選挙で極右政党が勝利し、その背景のもとでイスラームの聖典コーランを焼却するデモが「表現の自由の一環」として承認された。

だからこそ、極右政党は反ユダヤ主義とともに広がるイスラーム嫌悪に対してほとんど口を開かない。むしろ、例えばフランスではマクロン政権がパレスチナ支持のデモを禁止したが、国民連合はこれを支持している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story