コラム

世界展開する中国の「警備会社」はガードマンか、傭兵か──各国の懸念材料とは

2023年10月27日(金)13時25分
ソマリア海賊に乗っ取られた中国のマグロ漁船「天裕8号」

ソマリア海賊に乗っ取られた中国のマグロ漁船「天裕8号」(2008年11月17日) Mass Communication Specialist 2nd Class Jason R. Zalasky-US Navy/Handout/REUTERS

<40カ国以上に展開する中国の警備会社。顧客はほぼ中国企業で、その権益の警備や要人の警護などにあたっている。ほとんどの国にとって「直接的な脅威」ではないように見えるが......>


・中国政府のテコ入れにより、中国企業などを警備する「警備会社」はすでに世界40カ国以上に展開している。

・そのほとんどは「一帯一路」のルート上の国で、これらの国で中国企業がテロなどの被害に遭うことも珍しくない。

・中国の警備会社はこうしたリスクへの対応が主な業務だが、現地の民兵などを活用することも珍しくない。

ウクライナやガザをはじめ世界各地で不安定要素が増し、どの国にとっても国民や自国企業の安全が重要課題になるなか、中国は警備会社を海外に展開させている。

40カ国以上に展開する「警備会社」

アメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際関係研究所)によると、中国の警備会社は40カ国以上で中国企業の権益の警備や要人の警護などにあたっていて、その数は20~40社と見積もられる。

進出先のほとんどは中央アジアから中東、そしてアフリカにかけてだ。この地域は「一帯一路」構想でカバーされ、数多くの中国企業がインフラ建設や資源開発などを行なっているが、イスラーム過激派によるテロや内戦なども目立つ。

そのなかで中国人が犠牲になることも少なくない。RAND研究所は2006〜2016年のアフリカだけで、テロなどで死傷した中国人労働者を約1000人と試算する。

こうしたリスクに対応する中国の警備会社は形式的には民間企業だが、実質的には人民解放軍の元将兵などが経営している。

規模などに不明点も多いが、アフリカ戦略研究センターはアフリカ大陸だけで少なくとも9社が約12万人を雇用していると見ている。その全てが中国人ではなく、現地人も含まれる(この部分については後述する)。

このうち、例えば北京德威(Beijing DeWe)はエチオピアで、中国国営企業が40億ドルを出資するパイプライン建設現場などを警備している。

また、ソマリア沖では華信中安(Hua Xin Zhong An)や海外安全服務(Oversea Security Guardian)などが中国商船エスコートの業務を請け負っている。ソマリア沖では海賊が横行していて、中国商船に随行する警備会社の'社員'は自動小銃などで武装している。

ロシアや欧米の同業他社との違い

個人や施設を守る民間警備会社(PSC)は日本にもある。一方、ワグネルのように戦闘任務もこなす'傭兵'は民間軍事企業(PMC)と呼ばれる。

PSCとPMCは厳密には異なるが、途上国とりわけ紛争やテロが蔓延し、警察など治安機関が十分でない土地では区別がグレーになりやすい。ワグネルもアフリカなどでイスラーム過激派の掃討などに従事する一方、要人や重要施設の警備、兵員の訓練なども行なっている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story