コラム

内乱激化で邦人も退避 背景に展望、スーダン情勢を理解するための5つの基礎知識

2023年04月24日(月)16時00分

この背景のもと、バシールを引きずり下ろしたブルハンだけでなく、ダガロにとっても「中国の言いなりになった」とみなされることは国内の信用にかかわる。2021年に軍事政権に参画して以来、ダガロは2019年の抗議デモ鎮圧を否定するなど形式的にはバシールと距離を置いてきたからだ。

もっとも、スーダンに限らず、アフリカ各地で発生する内戦がそれまでの相互不信のうえにあることを考えれば、外国の呼びかけだけで簡単に停戦が実現しないのは不思議ではない。

その意味で、スーダンで停戦合意が実現するとすれば、周辺のアフリカ諸国の仲介による公算が高い。

近年のアフリカではエチオピアや南スーダンなど、外部の大国も仲介できないほど激化した紛争が珍しくないが、そのなかには難民の増加などで最も影響を受ける周辺国の仲介によって停戦合意にたどり着いた事例も少なくない。

ただし、それは即時ではなく、外部の大国が戦闘をほとんど忘れかけるほど時間がたち、当事者たちが疲れ果てたタイミングで初めて可能になった場合がほとんどだ。

スーダンに関しても、アフリカ各国で構成されるアフリカ連合(AU)が4月16日、特使の派遣と調停を行う方針を打ち出した。

世界全体に目を向ければ、居住地を追われる人々は1億人を超え、これまでにない難民危機が広がっている。スーダン情勢の悪化は、これをさらにエスカレートするきっかけにもなりかねない。

周辺国による仲介がカギになるとすれば、外部の大国は短期的な成果のみ求めず、現地の努力を側面から支援するしかないといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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