コラム

内乱激化で邦人も退避 背景に展望、スーダン情勢を理解するための5つの基礎知識

2023年04月24日(月)16時00分

4.ウクライナ侵攻の余波

この緊張を一気に爆発させたのが経済停滞だった。2020年のコロナ感染拡大は、貧困国の多いアフリカでとりわけ大きなダメージを呼び、各地でクーデタやテロが増加したが、スーダンでも昨年1月にはインフレ率が260%という驚異的水準に達していた。

その後発生したウクライナ侵攻で食糧価格が高騰したことは、スーダンの市民生活をさらに悪化させ、軍事政権に対する抗議デモが頻繁に発生するようになった。

これを受けて昨年12月、軍事政権は民主派との間で民主化に向けた新たな合意を結んだが、ほぼ有名無実のままだ。

こうした「反ブルハン」の気運の高まりはRSFに蜂起を促す一因になったとみてよい。

これに加えて注目されるのは、ロシアの軍事企業「ワグネル」の関与だ。

ウクライナ戦争で知られるようになったワグネルはアフリカ各地でも「営業」しており、スーダンでもバシール政権末期の2018年頃から主に鉱山地帯の警備などを請け負ってきた。しかし、それと同時に鉱物資源の密輸にも関わっているとみられる。

内乱勃発後、このワグネルがRSFを支援しているという疑惑が浮上した。これについてワグネル自身は否定している。また、プーチンが命じたという証拠もない。

しかし、スウェーデンにあるウプサラ大学のスウェイン教授は、ブルハン率いる軍事政権にアメリカがワグネルを退去させるよう求めてきたことが、ワグネルの警戒感を呼んだと指摘する。これに関連して、米CNNは4月21日、ワグネルがRSFに地対空ミサイルなどを提供していると報じ、証拠として航空写真を掲載した。

ワグネルの関与についてはより詳細な検討が必要だが、RSFを率いるダガロが金鉱山の開発にかかわってきたことに鑑みれば、RSFの勝利がワグネルにとって都合がいいことは確かだ。

5.停戦は可能か

内乱の激化を受け、欧米各国や日本は停戦を求めてきたが、実現には至っていない。

それも無理のない話で、バシール体制の時代からスーダンは、ダルフール問題を批判する欧米と対立してきた。バシール失脚後、ブルハンは西側との関係改善を模索してきたが、それでも貿易に占める先進国の割合は3割程度にとどまる。

つまり、ブルハンやダガロが西側の停戦勧告を聞き流しても不思議ではない。

むしろ、スーダン経済において圧倒的に大きな存在感をもつのが中国で、こちらも即時停戦を呼びかけているが、その効果も限定的とみられる。

バシールの悪名が高まったダルフール紛争で、この国の油田開発などを行っていた中国は、国連安保理などでスーダンをむしろ擁護した経緯がある。そのため、中国とバシールの二人三脚のイメージはスーダンでも定着している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story