「稼ぐテロ」が急増するアフリカ──食糧高騰、コロナ、温暖化...多重危機の悪循環
そのうえ、地球規模での気候変動もある。
マリやナイジェリアを含む西アフリカでは昨年6月から8月にかけて、記録的な大雨による洪水により、約20カ国で4300万人が被害を受けた。これが現地の農業にも深刻な被害を及ぼし、食糧価格の高騰に拍車をかけた。
一方、ソマリアを含む東アフリカでは昨年、干ばつによって2200万人の食糧調達が難しくなった。
こうした背景のもと、「少しでも稼ぎのいい仕事」を求めて、イスラーム過激派に加入する者が増えたとみられるのである。生活苦が広がるほど、そこに有効な手立てを打てない政府への不満が増幅すれば、なおさらだ。
危機の悪循環
ただし、「稼ぐためのテロ」の増加は、食糧危機の結果であると同時に、その原因ともいえる。治安の悪化は物流や生産活動をさらに停滞させるだけでなく、国際的な援助活動をも妨げるからだ。
ナイジェリア北部ボルノ州では昨年6月、援助関係者5人が誘拐された数日後、遺体で発見された。この地域の実効支配を目指すISWAPの犯行だった。
こうした事件は後を絶たない。そこには危機の悪循環が見出せる。
残念ながらというべきか、アフリカがスポットを浴びることはほとんどない。また、2021年にアメリカがアフガニスタンから撤退したことで、先進国ではイスラーム過激派の問題そのものがもはや過去のものとして扱われやすい。
しかし、アフリカにおいてイスラーム過激派はむしろ最優先の安全保障上の課題とさえいえる。そして、こうした世紀末的な人道危機が続けば、難民の急増などアフリカの外にも悪影響が及びかねない。
その意味で、たとえ核戦争の脅威がなかったとしても、アフリカに広がる「稼ぐテロ」の急増もやはりグローバルな脅威といえるのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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