コラム

「稼ぐテロ」が急増するアフリカ──食糧高騰、コロナ、温暖化...多重危機の悪循環

2023年03月06日(月)15時20分

そのうえ、地球規模での気候変動もある。

マリやナイジェリアを含む西アフリカでは昨年6月から8月にかけて、記録的な大雨による洪水により、約20カ国で4300万人が被害を受けた。これが現地の農業にも深刻な被害を及ぼし、食糧価格の高騰に拍車をかけた。

一方、ソマリアを含む東アフリカでは昨年、干ばつによって2200万人の食糧調達が難しくなった。

こうした背景のもと、「少しでも稼ぎのいい仕事」を求めて、イスラーム過激派に加入する者が増えたとみられるのである。生活苦が広がるほど、そこに有効な手立てを打てない政府への不満が増幅すれば、なおさらだ。

危機の悪循環

ただし、「稼ぐためのテロ」の増加は、食糧危機の結果であると同時に、その原因ともいえる。治安の悪化は物流や生産活動をさらに停滞させるだけでなく、国際的な援助活動をも妨げるからだ。

ナイジェリア北部ボルノ州では昨年6月、援助関係者5人が誘拐された数日後、遺体で発見された。この地域の実効支配を目指すISWAPの犯行だった。

こうした事件は後を絶たない。そこには危機の悪循環が見出せる。

残念ながらというべきか、アフリカがスポットを浴びることはほとんどない。また、2021年にアメリカがアフガニスタンから撤退したことで、先進国ではイスラーム過激派の問題そのものがもはや過去のものとして扱われやすい。

しかし、アフリカにおいてイスラーム過激派はむしろ最優先の安全保障上の課題とさえいえる。そして、こうした世紀末的な人道危機が続けば、難民の急増などアフリカの外にも悪影響が及びかねない。

その意味で、たとえ核戦争の脅威がなかったとしても、アフリカに広がる「稼ぐテロ」の急増もやはりグローバルな脅威といえるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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