コラム

「稼ぐテロ」が急増するアフリカ──食糧高騰、コロナ、温暖化...多重危機の悪循環

2023年03月06日(月)15時20分

稼ぐ手段としてのテロリスト

だとすると、何のためにテロ組織に入るのか。

UNDPの同じ調査で、自発的にテロ組織に加入した者のうち、その理由で最も多かったのは「雇用機会」の25%だった。これに「知人・家族の参加」の22%が続いた。

テロ組織なのに「雇用機会」というとピンときにくいかもしれないが、イスラーム過激派はその活動資金を調達するため、天然資源などの違法採掘・取引、麻薬取引、誘拐、人身売買、有力者や企業に対する恐喝といった違法行為に手を染めることが珍しくない。

なかには民間商船などに対する海賊行為に手を出す組織もある。

また、ナイジェリアの「イスラーム国西アフリカ州(ISWAP)」の場合、あたかも政府のように、支配地の住民から「税金」を取り立てている。

要するに、テロリストになることが収入につながるわけだが、これを主な目的にする加入者は増えている。

前回2017年のUNDPの調査では「雇用機会」という回答は13%に過ぎなかった。今年2月の調査結果と比べると、宗教的な理由でイスラーム過激派組織に加入する者の割合が半分以下になったのと入れ違いに、経済的な理由が2倍近く増えているのだ。

失業者とは限らない

「貧困がテロを生む」という言葉は、2001年からの対テロ戦争のなかでよく取り上げられた。この観点からすれば、貧困国の集まるアフリカで、イスラーム過激派が貧困層を吸収する構図は不思議ではない。

ただし注意すべきは、UNDPの今回の調査の回答者のうち49%はイスラーム過激派組織に加入した段階で仕事に就いていて、失業者だったのは40%にとどまったことだ(残り11%は学生)。

つまり、まじめに働いても暮らすのに十分な稼ぎが得られない状態が蔓延したからこそ、「雇用機会」を求めてイスラーム過激派に加入する者が2017年段階と比べても急増したといえる。

先述のように、アフリカはもともと貧困国の集まりだが、この数年はそれ以前と比べても生活環境が悪化してきた。

とりわけ食糧危機は深刻で、食糧農業機関(FAO)は昨年末、アフリカで2億7800万人が食糧不足に直面していると報告されていた。大陸全体でみれば、およそ5人に1人の割合だ。

食糧危機の深淵

日本も例外なく見舞われている昨今の食糧価格高騰は、ウクライナ侵攻以前からすでに始まっていた。

コロナ感染拡大で物流が滞っただけでなく、世界全体での「巣ごもり需要」による買い占めや、北米大陸での干ばつ、さらに食糧輸出国の「売り控え」もあって、小麦や大豆などの価格は段階的に上昇してきたのだ。

その結果、World visionは2020年、アフリカで2億8200万人が栄養不良と報告していた(2019年より4600万人増加)。

ここにウクライナ侵攻が追い討ちをかけた。アフリカのほとんどの国は多かれ少なかれ食糧を輸入している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story