「一帯一路」10周年なのに熱心に宣伝しない中国──求心力低下への警戒
習近平の強気は通るか
しかし、この強気が裏目に出る可能性もある。
中国は2010年代末頃から、かつてほどインフラ整備に資金を投入しなくなった。そこには「債務の罠」などの悪評が立ったことや、中国自身の財政事情など、いくつもの理由があり、これらと連動して中国政府が以前ほど国際的な舞台で「一帯一路」をアピールしなくなっているという指摘もある。
これに対して、日本を含む西側はアジア、アフリカの「失地回復」を本格化させている。昨年の主要国首脳会合(G7)が途上国・新興国のインフラ建設のため5年間で6000億ドルの拠出を発表したことは、その象徴だ。
もともと他の国際会議と比べても「一帯一路」フォーラムの首脳会合への参加は、中国と政治・経済両面で関係を強化するアピールとしてはかなり踏み込んだものだ。そのため、中国と政治的・経済的に近い国の多くはすでに首脳クラスを派遣している。
中国の方針がシフトし、西側が巻き返すなか、あえて首脳クラスの派遣に新たに応じることは火中のクリを拾うようなもので、多くの途上国・新興国が「割に合わない」と判断しても不思議ではない。
グローバル・サウスのバランス感覚
ウクライナ侵攻をめぐり、西側が対ロシア制裁を強化するなか、多くの途上国・新興国はこれと距離を置いているが、それは「ロシアを支持しているから」というより「大国同士の対決に巻き込まれたくないから」と言った方がよい。
同じことは中国に関してもいえる。
例えば、台湾海峡を挟んで米中の緊張が高まった昨年8月、アフリカ各国は共同で「台湾は中国の一部」であることに中国と合意したが、その一方で第2回「一帯一路」フォーラムに首脳クラスを派遣していたのは5カ国(ジブチ、エジプト、ケニア、モザンビーク、エチオピア)だけだった。これは大陸全体の10分の1程度だ。
つまり、「一帯一路」沿線国の多くは中国と主に経済面で付き合いを深め、自分たちにあまり関わりない中国の「死活的利益」(台湾や香港など)で共同歩調をとり、いわば恩を売る一方、それ以外の部分では深入りを避けているといえる。
だからこそ、政治的に中国と強い結びつきを持つ国のなかにも「一帯一路」フォーラムに首脳クラスが出席しない国は珍しくない(例えば南アフリカ、タンザニアなど)。そこには「踏み込みすぎれば中国に取り込まれる」という警戒感をうかがえる。
だとすると、トップの強気の方針を受けて、ヨーロッパからの出席が減っても穴埋めできるように、アジア、アフリカ各国の政府への働きかけに駆け回らざるを得ない末端の中国外交官には気の毒ながら、首脳クラスを派遣する国をかき集めるのは容易ではない。そのため、場合によっては、第3回「一帯一路」フォーラムそのものが、まるで何事もなかったように消えることさえあり得るのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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