コラム

「一帯一路」10周年なのに熱心に宣伝しない中国──求心力低下への警戒

2023年03月13日(月)14時30分

これが第3回でさらに減りかねないというのはなぜか。

ここで注目すべきは、39カ国のなかにヨーロッパ連合(EU)に加盟する6カ国(オーストリア、キプロス、チェコ、ハンガリー、ポルトガル、イタリア)があったことだ。また、EU加盟国以外のヨーロッパからも、永世中立国で独自路線をいくスイス、EUに仮名申請中のセルビアが39カ国に含まれていた。

ヨーロッパでも中国の投資への期待はあり、とりわけ反EU的な政府が率いるイタリアやハンガリーにそれは目立った。これは中国にとって「先進国でも中国は期待されている」とアピールする格好の手段になったといえる。

しかし、2019年と現在では中国を取り巻く環境は大きく変わっている。

転機として香港とコロナ

その最大の要因は香港デモとコロナ禍にある。

アメリカのピュー・リサーチ・センターの調査では、ヨーロッパ各国における「中国に好意的でない」割合はそれまで半分前後にとどまっていたが、多くの国で2019年に急に高まった。これは香港で中国統治に対する抗議デモが拡大した時期に一致する。

その翌2020年、武漢で発生したコロナ感染を中国当局が過小評価して隠蔽しようとしたという疑惑は、各地で反中感情をそれまでになく高め、ヨーロッパでもアジア系ヘイトを多発させるきっかけとなった。

「人工的なウイルス開発」の疑惑は、これをさらに後押しした。

mutsuji230313_chart.jpg

その結果、2022年段階でスウェーデンでは「中国に好意的でない」が83%を占め、これより低いものの、イタリアやハンガリーでさえ、それぞれ64%、52%にのぼった。

中国にとってのリスク

こうした状況下で発生したウクライナ侵攻で、ロシアと密接な関係を維持していることが、どの程度ヨーロッパで問題視されているかは不明だ。ヨーロッパでは、ロシアと異なり地理的に離れている中国を安全保障上の脅威として認知する割合は高くない。

実際、「特に深刻な問題」に関するピュー・リサーチ・センターの質問項目で、調査対象のヨーロッパ各国のなかで最も反中感情が鮮明になったスウェーデンでは「人権問題」が59%だったのに対して、「軍事力」は34%にとどまった。

しかし、それでもすでに反中感情がヨーロッパでかつてなく高まっている以上、第3回「一帯一路」フォーラムに首脳クラスが出席する国が減る公算は高い。例えば、これまでかなり積極的だったイタリアでも、昨年発足した新政権が「一帯一路」に基づくプロジェクトの更新を見直しているといわれる。

仮にヨーロッパからの参加国がゼロになれば、「一帯一路」フォーラム首脳会合そのものが前回の4分の3程度の規模に縮小する。そうなれば中国政府が何より重んじるメンツは大きく傷つく。

かといって、「首脳クラスを派遣する国が少なくなると見込まれるから『一帯一路』フォーラムを開かなかった」とみなされれば、それはそれでメンツは傷つく。だからこそ習近平はあえて「2023年中に開催」を打ち出したのだろう。かなり強気ともいえる方針だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story