「ヨーロッパ屈指の汚職体質」ウクライナ──先進国の支援は有効活用されるか
EU首脳会議出席のためベルギーを訪問したゼレンスキー大統領(2月9日) Yves Herman-REUTERS
<汚職撲滅をアピールするゼレンスキー自身もスキャンダルと無縁ではない>
ロシアに対抗するため、先進各国はウクライナに支援しているが、そこには「浪費されるかも」という懸念がつきない。
スキャンダルで国防大臣が更迭
ゼレンスキー大統領のヨーロッパ歴訪の陰であまり報じられなかったが、ウクライナではその直前の2月5日、レズニコウ国防大臣が解任され、ブダノフ情報局長を後任にあてる人事が明らかになった。
これは政府の公式発表ではなく、ゼレンスキー大統領の側近アラカミア氏がSNSで発表したものだ。それによると、今月末にかけてロシアの大規模攻勢が予測されるなかでの「戦局をにらんだ人事」という。
しかし、それを真に受けることもできない。
解任されたレズニコウ前大臣は、ウクライナ軍が購入する装備や食糧などの水増し請求や架空請求などの疑惑の渦中にあったからだ。国防省を舞台にする汚職をめぐって、すでに副大臣などは解任されていた。
今回、レズニコウに代わって国防大臣に就任するブダノフは諜報機関の責任者で、要するに汚職を摘発する側でもある。
ヨーロッパ屈指の汚職体質
残念ながらというべきか、このスキャンダルは氷山の一角だ。
レズニコウ更迭と前後して、ウクライナ最大の国営ガス企業を舞台とした10億ドル相当の横領の嫌疑で、有力新興財閥(オリガルヒ)の一人コロモイスキー氏だけでなく、前エネルギー大臣も捜査対象になっている。
ソ連崩壊にともなって1991年に独立したウクライナでは、共産党体制の遺産もあり、もともと透明性が低く、汚職が蔓延している。
世界各国の透明性をランキング形式で発表しているトランスペアレンシー・インターナショナルによると、2021年のウクライナは180カ国中122位だった。これはアフリカのザンビア(117位)やガボン(124位)と大差ない水準だ。このランキングでウクライナを下回ったヨーロッパの国はロシア(136位)だけだった。
なぜこのタイミングか
今回、突然のように汚職摘発が相次ぐことには、政治的な背景がある。応用政治調査センター(Penta)のフェセンコ博士は汚職の摘発をゼレンスキー大統領にとって「一石二鳥」と表現する。
第一に、ソ連時代からの汚職にうんざりしているウクライナ国民向けのアピールだ。もともと有名コメディアン・俳優のゼレンスキーが2019年大統領選挙で当選した背景には、汚職にまみれたエリートに対する反感と、政治経験がほぼゼロであることがゼレンスキーに有利に作用したことがあった。
第二に、「汚職撲滅に熱心」というメッセージを発することで、透明性の向上などを条件とするEU加盟のハードルを引き下げることだ。今回の国防大臣交代がゼレンスキーのヨーロッパ歴訪の直前に行われたことは、これを示唆する。
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