コラム

ウクライナでの「戦争犯罪」に法の裁きは可能か──知っておきたい5つの知識

2022年04月11日(月)17時05分

ロシアに関しては、経済制裁の効果と戦費拡大などによる経済崩壊の可能性がしばしば指摘される。仮に国内の不満が高まってプーチンが失脚すれば、ヨルゲンセンがいうように新体制が身柄引き渡しでICCと合意することはあり得る。

ただし、ミロシェビッチは最終的に軍を含むほとんどの支持基盤からも見放された結果、法廷に引き出されたが、失脚した「独裁者」の裁判にブレーキがかかることもある。

スーダンの場合、やはり経済停滞をきっかけとする抗議活動でバシールが2019年に失脚して逮捕された。その後、2021年8月に暫定政権はバシールをICCに移送すると決定したが、その直後に軍の一部の親バシール派がクーデターを起こすなど激しい抵抗に直面したため、移送は現段階でまだ実現していない。

バシール引き渡しそのものが大きなリスクになり、身柄移送の延期が長期化するほど、1944年生まれで高齢のバシールがICCの法廷に引き出される見込みは低くなる。

ロシアでも、親プーチン派は情報機関や軍、国営企業などに根を張っており、たとえ体制が変わってもこれらをすぐさま一掃することは容易でない。つまり、プーチン失脚がそのまま法の裁きにつながる公算は決して高くない。

こうしてみた時、ICCによる裁きには幾重もの条件があるといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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