ウクライナでの「戦争犯罪」に法の裁きは可能か──知っておきたい5つの知識
破壊されたロシア軍戦車の近くで捜索するウクライナ兵(4月6日、ブチャ) Alkis Konstantinidis-REUTERS
<処罰することのできる「戦争犯罪などに関わった個人」には国家元首も含まれるが、プーチン大統領やロシア政府幹部が裁かれる公算は低い>
・戦争犯罪などを扱う国際刑事裁判所は国家元首であっても裁く権限を持ち、プーチン大統領もその例外ではない。
・ウクライナにおける国際刑事裁判所の捜査はすでに始まっており、その対象は2013年からの全ての事案が対象になっている。
・ただし、制度的にはともかく、実際に「ロシアの戦争犯罪」を裁くには幾重もの条件をクリアする必要がある。
ブチャで多数の民間人の遺体が発見されるなど、ウクライナでの深刻な人道危機が報じられるなか、バイデン大統領が「プーチンを戦争犯罪人として処罰しろ」と叫ぶなど、法の裁きを求める声は各国で高まっている。独立国家の元首を裁くことはできるのか。以下ではそのためのルールや仕組み、効果と限界についてまとめる。
1.戦争犯罪を裁くルールはある
戦場での非人道的行為を規制する国際的なルールと仕組みは、第二次世界大戦後に生まれた。ジュネーブ条約(1949)と追加議定書(1979)では主に以下のような戦争犯罪が禁止された。
・民間人への無差別攻撃
・住民生活に欠かせない施設(発電所など)への攻撃
・捕虜の虐待・拷問
・傷病者、医療従事者への攻撃 など
一方、人種や民族などを理由とした大量殺害や強制収容を禁じるジェノサイド条約(1948)もほぼ同じタイミングで結ばれた。
ただし、実際にはこうした約束が守られないことも珍しくなく、とりわけ冷戦終結(1989)の後は民間人が犠牲になることが増えた。
なかでも東欧ユーゴスラビアやアフリカのルワンダなどで1990年代に相次いで発生したジェノサイドは、CNNなどの衛星放送が普及し始めていたこともあって世界中に大きな衝撃を与え、「口約束」ではない実効的な取り締まりを求める声が高まった。
その結果、ローマ規定(2002)に基づいて発足したのが国際刑事裁判所(ICC)だ。これとよく似た名称のものに国際司法裁判所があるが、こちらは国家間の領土問題を扱う。これに対して、ICCは戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド、侵略犯罪などを裁く国際的な裁判所である。
第二次世界大戦後の東京裁判やニュルンベルク裁判など、戦争の勝者が臨時に設けたものと異なり、ICCは常設の裁判所である。これによって戦争犯罪などを裁く国際的な仕組みはほぼ完成したといえる。
ロシアによる侵攻が始まった翌週の3月2日、日本を含む40カ国以上がウクライナにおける戦争犯罪や人道に対する罪の捜査・審理をICCに求めた(付託した)。
2.ICCは国家元首も逮捕できる
ICCは戦争犯罪などに関わった個人を国際法に基づいて捜査し、容疑が固まれば裁判にかけ、有罪が確定すれば処罰することができる。
その権限は、以下のいずれかの場合に行使される。
・ICC締約国(ローマ規定を署名・批准した国)の付託
・国連安全保障理事会の付託
・ICC検察官の独自の判断
ここでいう「戦争犯罪などに関わった個人」には各国の国家元首も含まれる。実際、2009年にICCは、北東アフリカのスーダンのバシール大統領(当時)に逮捕状を発行した。2003年にこの国で発生したダルフール紛争で、バシールが住民の虐殺を指示したと判断されたからだ。
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