ガソリン高騰をさらに煽るウクライナ危機──プーチンの二重の賭け
これは現代も基本的に変わらない。
2021年以降、世界各国の経済はコロナ禍から徐々に立ち直ってきたが、その一方で物流には大きなブレーキがかかったままだ。そのため、原油の需要は高まっても供給が追いつかない。リーマンショック直前の2008年と現代で異なるのは、この供給不足だ。
しかし、多すぎる資金が市場に流れ込み、価格をさらに引き上げる点では同じだ。実際、昨年春頃からエネルギー産業が機関投資家の関心を集めてきたが、ウクライナで緊張が高まり始めた昨年秋から、火の手が上がっていなくとも、原油価格はさらに段階的に上がったのである。
ウクライナ国境に10万人の兵力を集め、極超音速ミサイル「イスカンデル」を配備するといったロシアの軍事行動は「戦争が起こるかも」という観測を強めたが、その観測によって原油価格のさらなる高騰を見込んだ投機的な資金がエネルギー市場にそれまで以上に引き寄せられ、さらなる高騰に繋がってきたといえる。
この構図は、今後も当面続くとみた方がよいだろう。
プーチンの賭け
その意味で、ウクライナ危機は原油高騰の最後の一押しになったといえるが、これがどこまでロシア政府の計算だったかは不透明だ。ウクライナ危機には根深い歴史的背景があり、プーチンが原油価格をつり上げるためだけに危機を演出したと断定するだけの根拠はない。
その一方で、政府収入の約43%をエネルギー収入が占めるロシアにとって、少なくとも結果的に、原油高騰が主力産業のテコ入れになっていることは確かだ。
ただし、原油高はロシア経済にとって一種の劇薬でもある。
本格的な戦闘になればロシアの生産能力が打撃を受けることは容易に想像されるが、それ以前にコロナ感染拡大による高インフレ率やルーブル安などでロシア経済の土台はもともと大きく揺らいでいる。そのため、国際通貨基金(IMF)はロシアのGDP成長率が2021年の4.5%から2022年には2.8%にまで落ち込むと予測している。
つまり、危機のエスカレートは原油高による利益を増加させる一方、海外からのロシア向け投資を増やすことでさらなるインフレ圧力になるとみられるのだ。その意味で、プーチンにとってウクライナ危機は大きな賭けといえる。
原油高と緊張エスカレートの悪循環
これに加えて、ウクライナ危機にともなう原油高はプーチンにとって、もう一つの賭けでもある。原油高がアメリカを追い詰める一つの圧力になるとしても、それが結果的に世界市場に占めるロシアのシェアを落とすことにもなりかねないからだ。
クリミア危機が発生した2014年以降、アメリカはロシアに数々の制裁を実施してきたが、ロシア産原油の輸入は続けており、その量は2021年11月段階で1785万バレルにのぼった。「戦争になれば原油の破壊的高騰をもたらす」という暗黙の脅しを受けるバイデン政権は、ウクライナのために本格的な対立を演じることには消極的で、実際に今のところロシアからの原油輸入を止めていない。
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