コラム

EVは地球に優しくても人間に優しくない一面をもつ──コバルト生産の闇

2021年11月24日(水)15時40分
GM初のEV専門工場を視察するバイデン

GM初のEV専門工場を視察して試乗するバイデン大統領(2021年11月17日) Jonathan Ernst-REUTERS


・電気自動車が普及するにつれ、リチウムイオン電池の原料であるコバルトへの関心が高まっている。

・しかし、世界一の産出国であるコンゴ民主共和国では、コバルト生産をめぐる児童労働などの人権侵害が深刻である。

・こうした闇は、脱炭素への関心が高いが故に、国際的にはないものと扱われている。

いまや「脱炭素(カーボンニュートラル)」の一つの柱として世界的なトレンドになりつつある電気自動車(EV)は、地球には優しいかもしれないが、人間には必ずしも優しくない一面がある。

児童労働によって成り立つEV

小泉環境相(当時)が4月、「温室効果ガスの排出量を2030年までに13年度比で46%削減する」方針を打ち出したことは、その数値目標の出所をめぐる「おぼろげな」曖昧さもあって批判を招いたが、国内の政局はともかく、脱炭素の方針そのものは今後とも世界的なトレンドであり続けるとみられ、持続可能な開発目標(SDGs)との関連でも頻繁に取り上げられている。

なかでも世界的に高い関心を集めているのがEVの開発・普及だ。ハイブリッドなど既存の省エネ技術に優位のある日本メーカーは総じて消極的だが、これと対照的にヨーロッパ勢は、メルセデスが全ラインナップを電化する方針を2017年に発表するなど、いち早くこの波に乗っている。

ただし、脱炭素で注目されるEVも万能ではなく、そこには影もある。

とりわけ深刻なのが、EVの心臓ともいえるリチウムイオン電池の生産に欠かせない鉱物、コバルトをめぐる人権侵害だ。世界全体のコバルト生産の60~70%を占める中部アフリカのコンゴ民主共和国では、コバルト開発で児童労働が蔓延しており、搾取や暴行だけでなく劣悪な環境での死亡事故さえ頻繁に発生しており、この問題は2017年に国連の国際労働機関(ILO)でも議論されている。

コンゴの闇の奥

ところが、脱炭素が大きなムーブメントを生むなか、コンゴの問題はないものとして扱われやすい。他の分野でエシカルを強調する国・企業も、その例外ではない。

その典型例は、コバルト開発にかかわる多くの企業が2019年12月に訴えられた裁判だった。その対象には、アップル、グーグル、マイクロソフト、デル、テスラなどの名だたる欧米企業だけでなく、浙江華友コバルトなど中国企業も含まれていた。

この裁判は、大企業に対する訴訟を支援するアメリカの民間団体インターナショナル・ライツ・アドボケート(IRA)が起こしたもので、IRAはコンゴ人の14家族の代理人として、同国でコバルト開発にかかわる海外企業が「子どもを違法に就労させただけでなく、安全確保を怠り、事故で死亡させた」として提訴した。

訴状によると、こうした企業は法令に違反して子どもを雇用し、食事も十分に与えず、賃金は1日2〜3ドルしか支払っていなかったという。これらの鉱山では安全対策もおざなりで、しばしば死亡事故も発生している。

訴えられた企業の一つグーグルは英BBCの取材に対して「あらゆる原材料を倫理的に調達し、グローバルなサプライチェーンから児童労働を削減することに努めている」とコメントしている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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