2022W杯カタール招致をめぐる情報戦──暗躍するスパイ企業とは
富裕な産油国カタールにはアジアの貧困国から出稼ぎ労働者が集まっているが、その労働環境は劣悪で、過去10年間で約6500人が死亡したといわれる。W杯の会場となるスタジアムも外国人労働者が中心となって建設されたが、その待遇の悪さは国際人権団体などからしばしば批判されてきた。
こうした環境のもと、GRAは外国人労働者の生体情報を集め、さらにドローン(無人機)を用いて上空から監視するなどして、労働者の管理を強化してきたとAPは指摘する。
APに対して、CIAは「元職員と連絡を取ることは一般的にない」とコメントしている。
華盛りのスパイ産業
ただし、スパイ企業はGRAだけではないし、これを使うのもカタールだけではない。今回のAPの報道に先立って、英ロイターはカタールとしばしば対立してきたアラブ首長国連邦(UAE)が、同盟国アメリカとの協力に基づき、諜報を行なう民間企業を育成していると報じていた。
それによると、カタールがW杯開催国に選出されるかに関する情報を得るため、米国家安全保障局(NSA)の元職員クリス・スミスがUAEとの協力に基づき、FIFA本部やカタールの大会招致委員会などを、スパイウェアを用いてハッキングしたという。
こうした報道が確かなら、W杯開催をめぐってまさに仁義なきスパイ戦が展開されていたことになる。
あらゆるものが市場で売り買いされるグローバル化のもと、軍事サービスを売り物にする民間軍事企業が中東やアフリカの戦場で重宝されるようになって久しいが、情報通信技術の発達とともに、兵士の駆ける戦場だけでなく、より後方の諜報分野でも民営化が進んできたといえる。
北朝鮮などのサイバーテロが増えるなか、こうした企業は顧客を防御する盾にもなるが、使い方次第では他人の情報を引き出す矛にもなる。W杯カタール大会をめぐるスパイ企業の暗躍は、情報戦が激化する世界の将来を暗示するものなのかもしれない。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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