コラム

アフリカに広がるクーデター・ドミノ──危機に無策の「独裁者」の末路

2021年09月16日(木)16時50分

ところが、アフリカでは「政治家が民主的なのは権力を握るまで」というパターンが珍しくない。コンデも昨年、「大統領の任期は2期まで」という憲法の規定を強引に変更したうえで、3期目を目指して大統領選に立候補し、勝利したのである。

もっとも、この勝利は反対派の抗議デモを力ずくで鎮圧し、数十人の死者を出しながらのものだった。コンデは国内の和解と融和を強調したが、その就任式は権力を永続化させようとするセレモニーに過ぎなかった。

国難ともいえる状況で、高齢の「独裁者」が権力の座にしがみつけば、多くの国民から失望されるのは当然だ。選挙で不正がまかり通り、平和的に政府を交代できないなら、なおさらだ。

そのため、今回のクーデターに肯定的な見解は、ギニアの一般市民だけでなく、他のアフリカの国の専門家の間にもある。セネガル出身の政治学者イビラヒム・ケイン博士は、そもそもコンデ3選に疑問の余地が大きかっただけでなく、イエスマンに囲まれた高齢のコンデ大統領が現実とかけ離れた判断しかできなかったと指摘する。

ちなみに、こうしたコンデ政権と癒着した国の筆頭が、ギニア産ボーキサイトの37%以上を輸入する中国だった。だとすれば、先述のように中国政府が「内政不干渉」の原則を放り出してまで、今回のクーデターを批判しているのは、いわば当然の成り行きともいえる。

ミイラとりはミイラになるか

こうしてみた時、一般的にネガティブなイメージで語られやすいクーデターに、ギニアで「腐敗して無能な政府を倒す最後の手段」というポジティブな意味が見出されやすいのは不思議でない。そして、これはギニアに限った話ではない。

経済の停滞、貧困の蔓延、食糧不足などへの危機感、そして危機に対応できない(しない)政府への不満、形式に過ぎない選挙への幻滅といった条件は、アフリカ各地で充満している。そうした国ではギニアと同じく、多くの人に「国家のためのクーデター」を期待させやすくなる。

もっとも、民主主義が万能でないのと同じく、軍事政権にも絶対はない。

古来、軍事力で権力を握った者の多くは最終的に権力に溺れ、自分たちが倒した「独裁者」と同様の、あるいはそれ以上の「独裁者」になることも珍しくない。ミイラとりがミイラになる連鎖だけが続けば、経済停滞や食糧不足といった危機はさらに加速する。アフリカは今、さらなる混迷のふちに足を踏み入れているのかもしれない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBが5月に金融政策枠組み見直し インフレ目標は

ビジネス

EUと中国、EV関税巡り合意近いと欧州議会有力議員

ワールド

ロシア新型中距離弾道ミサイル、ウクライナが残骸調査

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 主力株上昇
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story