コラム

先住民族「強制収容所」で子供215人の遺骨発見──それでもカナダが先進的な理由

2021年06月08日(火)18時30分

しかし、トランプ前大統領には黒人やアジア系だけでなく先住民族に対しても差別的な言動が目立ち、2018年には先住民族の血を引く民主党エリザベス・ウォーレン上院議員に対して、その出自が疑わしいと述べたうえで「DNA検査を受け、インディアン(先住民族)だと判明したら、希望の慈善団体にトランプの名前で100万ドルを寄付する」などと揶揄・挑発して、人権団体や先住民族の団体から抗議を受けた。

「アメリカを再び偉大に」と叫んだトランプ氏にとって、白人による暗い歴史を暴くことは「非愛国的」なのかもしれない。しかし、最高責任者によるこうした言動は、政府や社会をあげての取り組みを無に帰すに等しい。

無邪気と邪気の共通点

そこまで攻撃的でないとしても、日本もまた他人事ではない。

日本政府は長く北海道のアイヌ民族を「先住民族」と認めてこなかったが、国際的な関心が高まるなか、2019年にようやくこれを認める「アイヌ新法」が成立した。しかし、アイヌ文化の保全などが謳われる一方、日本政府から公式の謝罪はないままだ。また、明治以来、「研究目的」としてアイヌの遺骨が持ち出されることもあり、そのなかには大学の研究室などに保管され続け、遺族のもとに戻っていないものもある。

こうした状況は、あたかも先住民族の苦しみなど日本には関係ないものとして意識されやすい。

日本テレビの番組内で3月12日、某お笑い芸人によるアイヌに差別的なネタが炎上した時、日本テレビは「制作にかかわった担当者に差別という認識が不十分だった」と釈明した。しかし、そうだったとしても、テレビ局が(しかも全国ネットで)無意識・無邪気・無知な差別を垂れ流したことは、先住民族に対する日本の認識の象徴でもある。

過去と向き合う姿勢が乏しい点で、先住民族への無理解は意識的ヘイトと大差ないといわざるを得ないだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

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