コラム

マグロ値上がりの危機?──アフリカ新興海賊の脅威

2021年03月12日(金)15時50分

例えば、アフリカ大陸最大の産油国であるナイジェリアの場合、膨大な投資が流入したことによって、それまでアフリカ最大の経済大国だった南アフリカをGDPで追い越すほどの経済成長を実現したものの、貧困層は今も人口の約7割を占める。

生活の悪化は政府や海外企業への不信感・憎悪を膨らませ、イスラーム過激派などが台頭する素地にもなった。しばしば高校生などの集団誘拐を繰り返すナイジェリアのイスラーム過激派、ボコ・ハラムが目立ち始めたのは2000年代末頃からだが、その台頭は過激思想の流入だけが原因ではない。

海賊が特に目立つナイジェリアでは、貧困を背景に陸上でも「ビジネス」としての誘拐が横行している。富裕層や外国人などがとりわけ標的になりやすいが、この構図はギニア湾の海賊が身代金目当ての誘拐を生業としていることに似ている。

そして、コロナで生活苦に拍車がかかり、その活動がエスカレートしている点でも、イスラーム過激派と海賊は同じといえる。

マグロは値上がりするか

食糧農業機関(FAO)の統計によると、冷凍マグロはこの数年、1キロ当たり10ドル弱の水準で推移してきた。しかし、コロナによって各国でツナ缶などの「巣ごもり需要」が増えた結果、マグロ類の単価は昨年第四四半期の段階で、一昨年の同時期と比べて世界全体で約20%上昇した。

このうえ海賊の横行が1年、2年と長期化すれば、操業・輸送のコストをさらに高め、ギニア湾を含む大西洋から運ばれるマグロは値上がりしかねない。その場合、他の地域でとれるマグロの価格もしわ寄せをくうことになる。

しかし、海賊への根本的な対策としては貧困の緩和が欠かせないものの、コロナ禍によって先進国が開発協力を大きく増やせる見通しは立たない。このギャップが続く限り、ギニア湾は今後ますます世界のリスクになるとみられる。

日本で人気の寿司ネタもまた国際情勢とは無縁でいられないのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story