コラム

ミャンマー軍政を揺るがすミルクティー同盟──反独裁で連帯するアジアの若者たち

2021年02月12日(金)16時40分

スー・チーのタトゥーを施したヤンゴンのデモ参加者(2021年2月8日) REUTERS/Stringer TPX IMAGES OF THE DAY


・ミャンマーにおけるデモ弾圧の激化は、それだけ抗議活動が拡大し、軍事政権がゆさぶられていることの裏返しである

・抗議活動の中心にいる若者は香港やタイの若者と結びつき、反独裁のネットワークに加わった

・この連帯にとって、香港、タイ、ミャンマーの政府の後ろ盾になっている中国は共通の敵になっている

2月1日のクーデタでミャンマーの実権を握った軍事政権は、アジア各地をつなぐ若者のネットワークに揺さぶられ、いら立ちを深めている。

軍事政権の焦り

軍事政権にとっては想定外だったかもしれないほど、ミャンマーでの抗議活動は数万人以上の規模に拡大している。首都ネピドーや最大都市ヤンゴンでは当局の禁止にもかかわらず、医師、政府職員、教師、さらに僧侶らも加わったデモが続いている。

大都市だけではない。南部や東部では、拘束されたスー・チーらに必ずしも好感をもっていないはずのカチンなど少数民族もクーデタに反対する抗議を行なっている。

これに対する当局の取り締まりは、徐々に暴力的なものになっている。軍事政権はデモが続く場合には「行動を起こす」と警告し、それを踏まえて2月8日には放水銃を、9日にはゴム弾を、そして10日にはついに実弾を、それぞれ治安部隊がデモ隊に向けて用いた。

エスカレートする取り締まりは、それだけ軍事政権がデモの拡大に手を焼いていることの裏返しでもある。警察の一部はデモ隊に協力しているともいわれる。

「私は彼氏が欲しいだけ」

軍事政権を揺るがすデモ隊の中心にいるのは、10代後半から20代の若者だ。

彼ら/彼女らの掲げるメッセージボードには、「私の元カレはよくなかったけど、ミャンマー軍はもっとよくない」、「私は独裁はいらない、私は彼氏が欲しいだけ」など、目を見張るものも少なくない。さらに、マンガのようなイラストを多用するメッセージや、様々なコスプレをした参加者も目立つ。

「不真面目」「遊び感覚」と捉えることもできるかもしれない。しかし、とってつけたような固いスローガンをただ連呼するより、これらの方がよりストレートに参加者の心情が伝わりやすい。少なくともキャッチーなことは確かだ。実際、若者のこうした活動に引っ張られるように、他の参加者も増えている。

こうした手法は、香港やタイから輸入されたものだ。

ミャンマーの近隣にある香港やタイでは、やはり若者の抗議デモが拡大してきた。そのなかで、同じような立場にある者同士がSNSでつながって情報を交換し、連帯し、刺激し合う関係ができてきた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story