コラム

新型コロナ、若者ばかりが責められて「中高年」の問題行動が責められないのはなぜか

2020年03月30日(月)16時30分

ダイヤモンドプリンセスから下船してそのまま寿司屋に行った人、既に感染者が出ているなかで海外旅行に出かけ、帰国した後にジムやスナックに通っていた人、昼間からトイレットペーパーの買い溜めの行列に並ぶ人、挙句にドラッグストアの店員を恫喝したり、「コロナをうつしてやる」と騒いだ人...

ところが、これらの場合、行政やメディアがわざわざ「中高年」を強調して「まだまだお元気な方が多いのは結構ですが...」などと注意喚起したのは聞いた記憶がない。むしろ、そうしたトンデモな行為を行政やメディアは「個人の行い」と扱い、属性全体を問題視する論調にはならなかった。

この状況が若者に言わせれば「中高年こそ何なんだ」となっても不思議ではない。

「公論」の顧客は中高年

筆者は大学で常日頃から若者と接しているが、問題行動をとる者は容赦なく怒鳴りつけ、場合によっては教室から追い出す。だから、「若者」が特別好きなわけではない。ただ、問題行動をとる個人を個人として扱っているだけだ。

コロナでも同じで、基本的に中高年であれ若者であれ、問題行動は一部にとどまっているだろう。

それにもかかわらず、行政やメディアが「若者」だけ属性でくくるのは不公平と言わざるを得ない。

そこには、中高年ほど選挙に行く割合が高く、テレビを観たり新聞を読む頻度が高いことも影響しているとみてよい。言い換えると、行政やメディアが「大事な顧客」に配慮する裏返しとして「若者」という雑なくくりが平気で使われやすいといえる。

あらゆる差別は思い込みから

属性で語るのは便利だし、とりわけ危機において誰かを責めたい風潮には合っているかもしれない。

しかし、問題行動は「個人の問題」として扱うべきであり、属性としての傾向を語るなら、それなりの根拠を示すべきだろう。それ抜きに、いわば社会的発言力の弱い側を属性で語り、やり玉にあげるのは、欧米でアジア人への差別が広がるのと同じ構造だ。あらゆる差別は「市場性」がある、しかし偏ったイメージの産物だ。

国難に結束して当たるなら、行政やメディアには世代間の不毛な争いを煽らない、慎重な言動が求められるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story