一線を超えた香港デモ──「優秀な人材が潰されるシステム」はどこへ行く
2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)蔓延の際には、社会福祉部の幹部として、親を亡くした子どもが高等教育を受けるための基金設立に従事し、2007年には開発局長としてクイーンズ埠頭の撤去に反対する住民の説得にあたり、「タフ・ファイター」とも呼ばれた。
このように住民目線の政策にかかわっていた林鄭氏は、しかし公務員として優秀で、指揮命令系統に忠実であるがゆえに、共産党体制を支える役人に徐々に変貌していった。
建設局長だった2012年、都市再開発の一環として、馬頭囲地区にあった不法建築の家屋を一掃する命令を下したが、中国政府と関係の深いエスタブリッシュメントが多い新界地区の不法建築物を黙認したことは、これを象徴する。こうして出世街道を進んだ林鄭氏は、2017年7月に行政長官に任命された。
風通しのよくない体制や組織のもとでは、優秀な人間ほど、その体制や組織から求められる目的に忠実であろうとして、結果的に多くの人々とかけ離れた方向に向かいがちだが、林鄭長官もそうした一人といえるかもしれない。
しかし、先述のように、香港政府にとれる選択肢はほとんどなく、実質的には中国政府が強権を発動するか、住民が納得する提案をするかしなければ、事態の収拾は難しい。いずれの場合も、林鄭長官が責任を問われ、「切られる」公算は高い。だとすると、将来の描きにくいシステムのもとで潰されるという意味で、林鄭長官は彼女を批判する若者と同じといえるだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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