コラム

リベラルな価値観は時代遅れか――プーチン発言から考える

2019年07月10日(水)15時55分

ところが、どこの国でも格差が拡大し続け、中間層の没落が鮮明になるにつれ、その余裕は失われた。

これまで強者とみなされてきた中間層に「弱者になりかねない危機感」が蔓延しても、そのほとんどはいわゆる弱者と異なり、特別な保護の対象になっていない。こうした「弱者予備軍」からみて、あくまで弱者にゲタを履かせる支援や改革を求めるリベラルは、自分たちを置いてけぼりにするものと映りやすい。

だとすれば、むしろ「普通の国民の利益」を強調する保守派に弱者予備軍が流れるのも不思議ではない。2016年大統領選挙でトランプ氏を支持した勢力のなかに、ラストベルトと呼ばれる重厚長大型の工業地帯の労働者が含まれていたことは、この文脈からも理解できる。

つまり、リベラルの用語や理論を吸収して理論武装し、無党派層を引きつけてきた保守派と比べて、アップデートに遅れたことが、リベラルな政治勢力を衰退させたとみてよい。その自己反省の上に立った再構築なしに、リベラルの復調はないといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20190716issue_cover200.jpg
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノルウェー政府系ファンドの防衛株投資禁止、見直しの

ビジネス

ブラジル貿易黒字、4月は前年比3.3%減 予想と一

ビジネス

米国以外の投資先探しが注目テーマに、ミルケン研究所

ビジネス

豪ANZ、上半期利益横ばい 住宅ローン競争と減損処
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story