コラム

異次元の日米関係―安倍政権の「猛獣使い外交」が抱えるコスト

2019年06月03日(月)13時45分

さらに、安倍首相が力をいれる憲法改正が実現し、自衛隊の海外派遣がより容易になった場合、日本がかぶる火の粉はさらに大きくなるとみてよい。

メッセージの空洞化

そして第三に、矛盾した言動が増えやすくなることだ。外交に二枚舌はつきものだが、猛獣が周囲を威嚇するほど猛獣使いは自分の存在感を大きく見せられるため、猛獣を根本的におとなしくさせることにメリットを見出さず(実際にも不可能だろうが)、人々を安心させながらも猛獣を野放しにしがちだからである。

例えば、これまで安倍首相はトランプ氏の保護主義を明確に批判してこず、その対応が今回の首脳会で貿易協議が事実上先送りになった一因とみてよいが、他の国への関税率はさておき自国への関税率だけ維持してもらおうとすること自体、アメリカの保護主義を間接的に認めるものといえる。

もちろん、日本の利益を確保することは重要な課題だ。しかし、その一方で、安倍首相は今年1月、EUとの間で経済連携協定を結んだ際、「日本とEUが自由貿易の旗手としてその旗を高く掲げる」と力説している。国際的に何も発信しないならまだしも、自由貿易の重要性を高々と強調するほど、大義と実態のギャップのみが際立つことは、日本のメッセージへの信頼を損ねかねない。

こうしてみたとき、「猛獣使い外交」のコストは小さくない。そのうえ、トランプ大統領が仮に再選されたとしてもその任期は最長で5年半だが、日本がその懐に飛び込むことによる影響は、国際的な信頼や外交的な選択の幅など長期的に後を引きやすいものばかりで、コストに見合う恩恵を得られるかは疑問だ。アメリカとの関係のみに傾く外交は、日本にとって新たなリスク要因とさえいえるだろう。

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※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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