アルジェリア大統領失脚──体制打倒を求める抗議デモとアメリカの微妙な立場
欧米諸国は2011年のリビア内戦や、最近でいえばベネズエラ危機などで「独裁者」を批判し、介入することが珍しくないが、多くの場合、その対象は欧米諸国と敵対的な勢力で、欧米諸国とよしみを通じている「独裁者」に対しては、その限りではない。
実際、これまで欧米諸国がブーテフリカ体制を批判することはほとんどなかった。言い換えると、欧米諸国はアルジェリアの事実上の軍事政権を容認してきたのであり、いまさら民主化の徹底を説けば「どのツラ下げて」となりかねない。
また、アルジェリアと対照的に、スーダンはアメリカ政府から「テロ支援国家」に指定され、欧米諸国と対立することが目立っていたため、バシール大統領への抗議デモの広がりは欧米諸国にとって絶好の機会だが、アルジェリアに何も言わず、スーダンに介入するのはあまりに露骨なダブルスタンダードになるため、これを控えているとみてよい。
テロ拡散を後押しするリスク
欧米諸国が総じて静かである第二の理由として、大規模な政治変動がテロの拡散を促すことへの警戒があげられる。
「アラブの春」の最中、欧米諸国はリビアのカダフィ体制が反体制派を力ずくで鎮圧することを批判し、反体制派を支援することで体制転換をバックアップした。いわば、目障りだったカダフィ体制を自由や民主主義の大義のもとで葬ったわけだが、これは結果的にリビアに全面的な内戦をもたらし、さらなる混乱に陥れた。
カダフィ体制崩壊後、それまで抑え込まれていたイスラーム過激派の活動は活発化し、リビアはシリア、イラクに次ぐ「イスラーム国(IS)」第三の拠点となった。そのうえ、カダフィ体制が保有していた武器が流出し、アフリカ一帯の治安はさらに悪化した。
つまり、欧米諸国がアルジェリアに徹底した民主化を求めたり、敵対するスーダンに直接介入したりすれば、政治的混乱が長期化しかねず、それはリビアでそうだったように、イスラーム過激派を活発化させかねない。これは欧米諸国に、中東の政治変動について黙して語らない姿勢をとらせているだけでなく、むしろブーテフリカ氏辞任での幕引きを願わせているとみてよい。
その意味で、表向きの大義はともかく、アメリカと中国の間に大きな違いはない。中東での抗議デモの広がりは、各国の支配層とこれに抗議する者の衝突であるだけでなく、いわば各国の内側で生まれる「改革のうねり」と、外側にある「現状維持の重し」のぶつかり合いともいえるだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売
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