NZテロをなぜ遺族は許したか──トルコ大統領が煽る報復感情との比較から
「...もし傷つけられ、侮辱され、害を与えられても、生産的に生きるというまさにそのことが、過去の傷を忘れさせてくれる」。
出典:エーリッヒ・フロム『悪について』p25.
つまり、「復讐の願望より生産的に生きることの方が強い」ということだが、これは言い方を変えれば、仇を憎み続けることより、それを許す方が、健全な精神を保つうえではるかに重要だということだ。フロムがナチスの迫害を逃れ、ドイツからアメリカに亡命したユダヤ人だったことは、特筆すべきだろう。
許しが辛い経験を克服する効果をもつことは、現代の心理学でも指摘されており、メンタルケアでも採用されている。
これに従えば、相互不信が渦巻く世界で政治が行うべきは、テロリスト(あるいは闇の仕事を請け負う人々)が生まれずに済む社会を目指すことや、遺族が「許し、前を向ける」ように手助けすることであり、報復感情を鼓舞することではない。
筆者は亡命した経験も、身近な人をテロで失った経験もない。そのうえであえて言うなら、遺族がタラント容疑者を「許す」ことは、フロムの考察に適うだけでなく、憎悪と報復の連鎖を断ち切ろうとする勇気ある決断ともいえるだろう。だとすれば、それとは逆に、憎悪をただ煽るエルドアン大統領と、それに歓声をあげる支持者たちは、この「強さ」と全く無縁といえるのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売
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