コラム

「非常事態宣言」はトランプ独裁への第一歩?

2019年02月15日(金)13時15分

非常事態宣言は最高責任者に大きな権限を認めるものだけに、非常事態の名の下で公平性を担保できるか、という懸念がつきまとう。だからこそ、その運用には慎重さが求められ、アメリカでは戦争や大規模な自然災害が発生した場合を除き、非常事態が宣言されることはほとんどなかった。

今回の場合、不法移民が集団で押し寄せることは、ありふれた出来事ではないとしても、これが「アメリカの公共の安全を脅かしている」かは議論の余地のあるところだ。少なくとも民主党は、この認識そのものに反対しており、そこにはドサクサに紛れて反対派を押し切る手段として非常事態宣言が利用されることへの警戒感がある。

北朝鮮問題を思い出す

だとすると、非常事態宣言そのものが大きな政治問題になることは不思議ではない。

しかし、それゆえに、通常ならあり得ないタイミングで非常事態宣言に踏み切ることは、その撤回を盾に、相手に譲歩を迫る効果がある。つまり、非常事態宣言そのものが民主党への圧力になる。火元であるトランプ氏自身が火消しを条件に相手に譲歩を迫るパターンは、北朝鮮問題などでもみられたものだ。

ただし、民主党は法的措置も辞さない徹底抗戦の構えで、この対立が泥沼になれば、「原因」であるトランプ氏に世論の批判が集中する可能性は高い。言い換えると、相手が決して呑めない条件をつきつける手法が短期間で成果をあげず、長期化した場合、期待した成果をあげられずに譲歩を迫られるのは、むしろトランプ大統領自身になりかねないのであり、この点でも非常事態宣言をめぐる対立の構図は、北朝鮮問題を思い起こさせるのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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