コラム

中国に出荷されるミャンマーの花嫁──娘たちを売る少数民族の悲哀

2018年12月11日(火)14時20分

「売る側」から「買う側」に移った中国

この問題は、世界全体を取り巻く人身取引の一部であり、中国はその経済成長によって「消費者」としての立場を強めてきた。

人身取引の利益は年間およそ1億5000万ドルで、そのうち約1億ドルはセックス産業でのものとみられる。

その多くは「貧しい側」から「豊かな側」への移動で、例えばイタリアとベルギーのセックスワーカーの60パーセントはナイジェリア出身とみられる他、日本でも特に風俗店などで働く東南アジア系などの女性には人身取引の犠牲者も少なくないと国連は報告している。

このサプライチェーンのなかで中国は従来、海外に人を送り出す立場にあった。そのうえ、「国内市場」向けの子どもの誘拐が社会問題化していた。

しかし、近年では経済成長にともない、中国でも女性の「輸入」が増えている。そのなかにはウクライナなど経済状況の思わしくない東欧諸国まで含まれており、ミャンマーの事例はその一端といえる。

忘れられた戦争

こうした中国側の事情の一方で、ビルマ人ではなく少数民族の女性が集中的に連れ出される背景には、ミャンマーの抱える問題も見過ごせない。

ミャンマーでは1988年にクーデタで権力を握った軍事政権のもと、少数民族をその居住地から力ずくで追い出し、その土地にビルマ人を住まわせる「ビルマ化」政策が進められた結果、ミャンマー東部に暮らすカチン人やシャン人などの少数民族は、西部ラカイン州に多いロヒンギャと同じく迫害されてきた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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