コラム

中国に出荷されるミャンマーの花嫁──娘たちを売る少数民族の悲哀

2018年12月11日(火)14時20分

「一帯一路」国際会議に出席したスー・チー氏と習近平国家主席(2017年5月15日)Roman Pilipey-REUTERS


・最新報告によると、2013年からの5年間で中国人男性との結婚を強いられたミャンマー人女性は7500人、出産を強いられた女性は5100人にのぼる。

・その背景には、一人っ子政策によって「あぶれる」男性が中国で多いことがある。

・その一方で、連れ出される女性のほとんどはビルマ人ではなく少数民族であり、そこにはミャンマー国内の問題もかいま見える。

ミャンマーは70万人以上にのぼるロヒンギャ難民の流出で注目されたが、この国ではそれ以外の少数民族も困苦のなかにある。最新の報告では、少数民族カチンやシャンの多くの女性が中国への人身取引の犠牲者となり、そのほとんどが「子どもを産むための道具」として扱われている実態が明らかになった。

子どもを産むための道具

アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生研究科(JHSPH)が12月7日に発表した報告書は、2013年から2017年までに、ミャンマーから中国へ17万1000人が移住し、このうち7500人の女性が中国人男性との結婚を強制され、5100人が子どもを産むことを強制されたと報告した。

1211mutuji1.jpg

結婚や出産を強制された女性のほとんどは、中国との国境に面したカチン州やシャン州北部から中国に入国しているが、そのほとんどがミャンマー人口の7割以上を占めるビルマ人ではなく、少数民族のカチン人やシャン人とみられる。しかも、そのなかには子どもを産まされた後、ミャンマーに戻っても、再び中国に連れ出されるケースさえある。

JHSPHがタイに拠点をもつNGOカチン女性協会との協力により、中国に移住して戻ってきた経験をもつ女性を対象にカチン州、シャン州北部で行った調査と、カチン州、シャン州出身者女性を対象に中国で行った調査では、39.8パーセントが中国人男性との結婚を、30.2パーセントが出産を、それぞれ強制された経験をもっていた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story