コラム

なぜ「マケドニアの国名変更」が米ロの緊張を呼ぶか──「フェイクニュース大国」をめぐる攻防

2018年10月02日(火)15時04分

国民投票当日、投票ボイコットを叫ぶ国名変更反対派 Marko Djurica-REUTERS


・マケドニアの国名を「北マケドニア」に変更する国民投票は、投票率が過半数にみたなかったため、無効になった

・この国民投票は、マケドニアがNATOやEUに加盟するための第一歩だったが、国民投票が無効になったにもかかわらず、マケドニア政府は「西側の一国」になることを目指している

・マケドニアでは親ロシア派と親欧米派の分裂が目立ち始めており、この構図はウクライナ危機にも通じる

9月30日、バルカン半島の小国マケドニアで「国名を北マケドニアに変更すること」の賛否を問う国民投票が行われ、有効投票の90パーセント以上が賛成したが、投票率は34パーセントにとどまった。マケドニア憲法では、国民投票の結果が効力を発揮するには50パーセント以上の投票率が必要だが、ザエフ首相は国名変更を進める構えだ。強硬に国名変更が進められれば、マケドニアが「第二のウクライナ」になりかねないことが懸念される。

欧米諸国の強い関心

マケドニアは人口約200万人の小国だが、今回の国民投票に先立ち、欧米諸国は並々ならない関心をみせた。

mutsuji20181002150map.jpg

9月8日、マケドニアを訪問したドイツのメルケル首相はザエフ首相と会談して「歴史的なチャンス」と強調し、国民投票を支持。この時期、メルケル首相だけでなく、ストルデンベルグNATO事務総長やハーンEU委員など、他の西側の要人の訪問も相次いだ。

なぜ、マケドニアが「北マケドニア共和国」に国名を変更することが、欧米諸国にとってそれほど重要なのか。

そこには大きく2つの意味がある。

第一に、東ヨーロッパに西側の同盟国を増やすことだ。これは西側の一国ギリシャとの関係による。

「マケドニア」は誰のものか

そもそもマケドニアは旧ユーゴスラビア連邦の崩壊にともない1991年に独立した国だが、独立段階から隣国ギリシャと国名をめぐって対立してきた。

「マケドニア」は古代インド遠征を行ったアレクサンダー大王が支配した国の名で、ギリシャ北方にもこの地名があるため、ギリシャには北隣のマケドニアが自国北部の領有権を主張しかねないという危機感がある。

そのため、クロアチアをはじめ他の旧ユーゴスラビア諸国が相次いでNATOやEUに加盟するなか、マケドニアはギリシャの反対で「西側の一国」になれないままだった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story