なぜいま中国向けODAを終了したか──日本政府にとっての一石二鳥
中国を訪問し、李克強首相と握手する安倍総理(2018年10月25日)REUTERS
少なくとも政府レベルで日中関係が改善しつつあるこのタイミングで中国向けの政府開発援助(ODA)を終了させることは、中国に「思い知らせる」ことが目的ではなく、むしろ日本政府は国内の反中感情を満足させつつ、中国政府との協力を軌道に乗せる手段として、この決定に踏み切ったとみられる。
反中世論の満足
10月25日に訪中した安倍首相は、中国向けODAが「歴史的使命を終えた」として、終了する方針を打ち出した。首相訪中直前に明らかになったこの方針は、多くの日本人にとって「遅きに失した」ものかもしれないが、それでも「もはや日本よりGDPが大きく、これまでの経緯からしても、まして中国が軍拡を推し進めていることからも、援助しないのが当たり前」といった反応がネット上には目立ち、総じて肯定的に受け止められているようにみえる。
日本政府がこういった世論の支持を期待していたことは疑いない。だとすれば、政府の方針は反中世論を味方につける国内政治上のプラスポイントとなる。
ただし、中国の経済大国化や軍拡、さらにこれまでの日中関係があったとしても、単に「思い知らせる」ためだけにODAを終了させるなら、尖閣問題の表面化から安倍首相の靖国参拝に至る、日中関係が極度に悪化していた2010年代前半の段階で、その決定をしていてもおかしくなかったはずだ。
まして、いくら国民の約8割が中国に親近感を抱いていなくとも、日本政府がただ反中世論に傾いてODAを終了させたとも思えない。そこには以下のポイントがある。
・いま日本が対中ODAを終了させても、中国にダメージはほとんどない。
・それどころか、対中ODAを終了させても外交関係にダメージがないタイミングで、この決定は行われた。
・さらに、対中ODAを終了することは中国の満足感を引き出す効果がある。
中国にダメージはない
まず、日本の対中ODAの終了は中国にほとんどダメージがない。日本の対中ODAは、既に大幅に削減されていたからである。
1979年にスタートした日本の対中ODAは、1990年代の後半に転機を迎えた。当時、軍拡を進める中国の艦船が日本の排他的経済水域で勝手に調査をするなどしたこともあり、日本の対中感情が悪化。内閣府の世論調査では、中国に「親しみを感じる(「どちらかというと」を含む)」という回答は1980年に78.6パーセントだったが、1996年には48.4パーセントにまで落ち込んで「親しみを感じない(「どちらかというと」を含む)」と同率となり、その後も下落し続けた。
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