コラム

【アメリカ】泥沼のアフガニスタンからの「名誉ある撤退」は可能か──タリバンとの交渉の落とし穴

2018年08月07日(火)19時30分

アフガニスタン南部のヘルマンド州で同国陸軍の兵士を訓練する米海兵隊員(左、2017年7月5日) Omar Sobhani-REUTERS July 5, 2017


・泥沼のアフガニスタンからの撤退を目指し、トランプ政権はタリバンとの交渉を始めた

・交渉をスムーズに進めるため、アメリカはアフガニスタン政府ぬきにタリバンと一対一で協議している

・アフガニスタン政府ぬきの交渉は、アメリカの「名誉ある撤退」だけでなく、この地の和平の実現をも危うくしかねない

17年間に及ぶアフガニスタンでの泥沼の戦闘から、アメリカ軍が撤退する可能性がでてきた。トランプ政権は7月、これまで戦闘を続けてきた、この地のイスラーム武装勢力タリバンとの交渉を開始した。

アフガニスタンでの戦闘の収束は、地域一帯の安定にとっても重要な意味をもつ。

ただし、アメリカとタリバンの交渉が仮に成功しても、それがアフガニスタン和平の実現につながるかは不透明だ。

トランプ政権は、これまで支援してきたアフガニスタン政府を蚊帳の外に置いたまま、タリバンとの交渉に向かっている。重要な当事者であるアフガン政府をぬきにタリバンと交渉し、アメリカが撤退すれば、この地の混沌がかえって大きくなる危険性すらある。

泥沼でもがくアメリカ

ニューヨークタイムズをはじめ欧米諸国の主要メディアは7月28日、トランプ政権とタリバンの交渉開始を報じた。報道によると、アメリカ国務省のアリス・ウェルス副長官補らがカタールにあるタリバン代表部を訪問したという。これに関して、ホワイトハウスは明言を避けている。

アフガニスタン政府は2015年7月から、やはりカタールでタリバンと断続的に会談してきた。オバマ政権はこれと並行してタリバンとの交渉を模索したが、報道が正しければ、トランプ政権はその加速を目指していることになる。

その場合、アメリカ軍の撤退と引き換えに、タリバンによる軍事活動の停止が焦点になると考えられる。これはアメリカにとって、アフガニスタンから抜け出すための方策といえる。

トランプ政権にとっての「撤退」

アフガニスタンはアメリカにとって、ベトナム以来の泥沼と呼べる。

9.11後のアフガニスタン戦争で、それまでアフガニスタンを支配していたタリバンを首都カブールから駆逐して以来、アメリカ軍はこの地に駐留してきた。その任務はアフガニスタン軍の訓練や物資の提供にとどまらず、タリバンをはじめ反体制派の掃討なども含まれる。

しかし、長期にわたる戦闘はアメリカに大きな負担としてのしかかってきた。2001年以降、アフガニスタンで死亡したアメリカ軍兵士は、2018年8月3日までに2350名にのぼる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story