コラム

ガソリン価格は160円代にまで上がるか-原油市場を揺るがす中東の三大ミサイル危機

2018年06月08日(金)12時00分

イエメンは冷戦期にソ連からスカッドBを調達し、冷戦終結後はイランや北朝鮮からもミサイル輸入を開始。2015年に首都を制圧したフーシ派は、これらを支配下に置いているのです。フーシ派によるサウジへの攻撃は、今後とも続くものとみられます。

周辺国への拡大

ただし、フーシ派の標的は、サウジだけにとどまりません

6月2日、フーシ派は有志連合の一角を占めるUAEに対して、「(UAEの首都)アブダビは今日からもはや安全ではない」と通告。UAEはサウジに協力してイエメン内戦に介入する一方、イエメン政府、フーシ派のいずれとも距離を置く南部の部族連合を支援し、同国で独自の勢力圏を拡張しつつあります。そのため、2017年12月に既にフーシ派はUAEの原子力発電所に向けてミサイル攻撃をしたと発表しています。

米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの

これに対して、名指しされたUAEもミサイル能力を向上させています。2017年10月、米国主導の経済制裁の本格化により、UAEは北朝鮮と断交。しかし、それ以前にUAEは北朝鮮から軍事物資を輸入しており、そのなかにはスカッドBを改良した火星5も含まれていたとみられます。この他、UAEはロシア製短距離弾道ミサイルSS-21も入手しているといわれます。

つまり、UAEを直接狙ったフーシ派の攻撃がこれまで以上に増えれば、UAEによる軍事活動もさらに活発化するとみられます。そのUAEの原油埋蔵量(9,780億バレル)は、世界全体の5.7パーセントを占めています。フーシ派との衝突が、イエメン領内にとどまらずUAE国内でも激化すれば、石油輸出への影響は免れないといえるでしょう。

これら三つの危機はいずれも大産油国を巻き込んでいるだけに、一つだけでも大きなインパクトがありますが、同時進行で危機がエスカレートした場合、ガソリン1リットル160円ではむしろ安い水準にまで高騰する可能性すらあります。

いずれの場合も、敵対する国との衝突に備えてミサイル能力を向上させていますが、それは結果的に、中東全体の緊張をさらに高める一因となっています。中東の火事場にミサイルを輸出する側は、それによって間接的に、自国の経済にも悪影響を及ぼしているといえるでしょう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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