コラム

ガソリン価格は160円代にまで上がるか-原油市場を揺るがす中東の三大ミサイル危機

2018年06月08日(金)12時00分

中東の混乱がガソリン価格を直撃したら? Sergio Perez-REUTERS


・国際的な原油価格に大きな影響力をもつサウジアラビアは、価格上昇を図っているとみられる

・その一方で、中東では主に三つのミサイル危機が緊張を高めており、そのいずれもが大産油国を巻き込んでいる

・中東のミサイル危機は、産油国の思惑を超えて、原油価格を上昇させる懸念が大きい

5月末、1リットル150円台(東京都区部)を突破したレギュラーガソリン価格は、その後も高止まりの様相を呈しています。その今後の動向を大きく左右するのが、6月22日に開催される石油輸出国機構(OPEC)の総会です。

今回の総会の焦点は、OPEC加盟国が生産量の制限(減産)を維持して原油高に向かうか、増産に転じて原油安に舵を切るかにあります。

どちらに転ぶかはエコノミストの間でも予測が分かれますが、OPECで大きな影響力をもつサウジアラビアが減産の維持、つまり原油価格の引き上げに傾いているという観測は、大方の一致するところです。サウジ政府は1バレル80ドル以上の水準を望んでいるともいわれます。

OPEC総会の行方は見守るしかありません。しかし、1バレル80ドルを越えれば、ガソリン価格が160円台に突入する見込みも出てきます。のみならず、OPEC総会の決定にかかわらず、中東で大産油国を巻き込んだ緊張が高まる状況は、原油価格の先行きに悲観的な材料となります。

特に注目されるのがイランとイスラエルの直接対決ですが、今日の中東ではこれを含めて三つのミサイル危機があります。この緊張の高まりはガソリン価格をはじめ、日本経済にも影響を与えかねないものとみられます。

イランとイスラエル

5月10日、イスラエルはシリア領内のイランの軍事施設を、70発以上のミサイルなどで攻撃。これに関して、イスラエル政府は同日イランがイスラエルに対して行なったミサイル攻撃への報復と主張しています。

WS000243.JPG

イランとイスラエルは、中東屈指の軍事大国。このうち、イランは冷戦期に北朝鮮製の弾道ミサイル、火星5を購入したのを皮切りに、その後独自に改良を重ねてきました。現在では、射程2,000キロにおよぶ中距離弾道ミサイル、セッジールなどでイスラエルを射程に収めています。

これに対して、イスラエルは米国製の迎撃ミサイル、パトリオットなどで防備を固める一方、射程約5,000‐6,000キロの中距離弾道ミサイル、エリコ3など自国製ミサイルを配備しています。

イラン産原油の流通量は減る

イランとイスラエルは、もともとパレスチナ問題などをめぐって対立してきました。しかし、トランプ政権が2015年のイラン核合意を破棄し、経済制裁を再開したことは、米国の同盟国イスラエルのイラン攻撃を加速させてきました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story