米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの
最近ではUAEが軍事施設、港、通信施設などの整備を行い、住民登録なども進めていました。さらにアル・ジャズィーラによると、UAE軍が展開するや、官公庁にはUAEの国旗が翻り、同国のナヒヤーン皇太子の肖像画が掲げられ、数百人の住民が部隊の歓迎のために集まってきたといいます。
サウジの求心力の限界
ただし、ソコトラ島での軍事展開がUAEの国益を反映したものであることは確かですが、これがイエメン政府のいう「侵略」に当たるかは疑問です。少なくとも公式に確認される限り、UAE、イエメンの両政府は、ソコトラ島のリース契約を明確に肯定も否定もしていません。
合法的な契約でも、領土の長期リースや売却は、売却国で国内の反発を招きがちですが、買収国にとっても外聞が悪いものです。例えば、スリランカやモルディブの港湾部を長期リースする中国は、反対派から「土地収奪」と批判されます。
そのため、当事者がリース契約をグレーにしていることは、逆にリース契約の存在を示唆します。仮にリース契約があるにもかかわらずイエメン政府がUAEの行動を「侵略」と批判するなら、国内向けの煙幕に過ぎないといえます。
むしろ、ここで重要なことは、これまでの関係からソコトラ島に部隊を進めればイエメン政府から不満が噴出することは目に見えていたはずなのに、あえてUAEがそれを行なったことです。
そこには、トランプ政権によるイラン核合意の破棄が目前に迫るなか、スンニ派の結束を強めたいサウジアラビアが自国に譲歩するはずというUAEの目算をうかがえます。言い換えると、UAEはイラン核合意の破棄という外の大きなショックを利用してビッグブラザーに揺さぶりをかけているといえます。
それはスンニ派諸国の間でのサウジアラビアのリーダーシップが限定的であることをも示します。サウジの限界は、スンニ派諸国との関係をテコにイラン包囲網を強化したい米国にとってもアキレス腱になるでしょう。
ただし、スンニ派諸国の結束が形骸化することは、米国によるイラン核合意破棄の後の中東が平穏であることを意味しません。むしろ、スンニ派諸国の協力が限定的になれば、米国はこれをあてにせず、イランへの敵対心が強いサウジやイスラエルとだけでも、より直接的な軍事活動に向かいかねません。これらに鑑みれば、米朝首脳会談に先立って米国がイランで何らかのアクションを起こす可能性は大きいといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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