スリランカは「右傾化する世界の縮図」―ヘイトスピーチ規制の遅れが招いた非常事態宣言
先進国を含めて、どこの国でも外国人や少数派による破壊活動には神経をとがらせますが、「多数派によるテロ」は軽視されがちです。ただし、スリランカの場合、その「お目こぼし」は、とりわけ露骨だったといえます。
形式的な取り締まり
その後、スリランカ政府は取り締まりを強化。2017年11月には2014年の事件を扇動したBBSの幹部が、同国で初めて「ヘイトクライム」によって逮捕されました。これは、2014年の事件を受けて国連が具体的な改善策を求め、米国がビザ発給緩和の延期を通知するなど、国際的な批判が高まったことを受けてのものでした。
しかし、スリランカ政府の取り締まりは、いわば「外部を納得させる」程度にとどまり、その後もヘイトスピーチや、それに扇動されたムスリム襲撃への取り締まりは事後的なものに終始しました。
例えば、2017年11月に南部の港町ジントータにあるムスリム居住区を数百人のシンハラ人が襲撃し、数十軒の家屋と二つのモスクが破壊された事件で、警察は19人を逮捕。そのなかには、「ムスリムが仏教寺院を破壊しようとしている」というフェイク・メッセージを流布したシンハラ人も含まれていましたが、当局は襲撃以前にこれを取り締まりませんでした。
同様に、3月6日の反ムスリム暴動の前日、ナショナリスト組織マハソン・バラカヤの指導者はディガーナの街中でSNSを通じて以下のように呼び掛けています。「この街はムスリムだけのものになっている。我々はもっと前からこれに取り組むべきだった。...ディガーナやその近くにシンハラ人がいれば、来てほしい」。こうした襲撃を示唆するメッセージが流れたにもかかわらず、6日に暴動の対象となった近隣の街にはわずかな警官や兵士しか配置されず、しかも彼らは暴動を制止しようとしなかったと報じられています。
右傾化する世界の縮図
近年では先進国と開発途上国を問わず、「自国第一」を掲げる政府や政治勢力が珍しくありません。そうした政治家や政府は過激な主張に賛同する支持者を抱えており、これらによるヘイトスピーチやヘイトクライムは放置されやすくなります。イスラーム過激派への対策には熱心でも、白人至上主義者への取り締まりには微温的なトランプ政権は、その象徴です。
スリランカのムスリムの一部にIS戦闘員が生まれ、これがシンハラ人に警戒感を抱かせたのは確かです。しかし、「愛国」や「表現の自由」を都合よく使いまわす「お目こぼし」は、結果的に「右翼テロ」を増長させ、ひいては国家全体をさらなる混乱に陥れかねません。スリランカの非常事態宣言は、右傾化する世界の一つの縮図といえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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