世界に広がる土地買収【前編】──中国企業による農地買収を活かすには
規制を強化したオーストラリア政府も、雇用を生む、輸出を増やすという効果から、外国資本による農業向けの投資そのものは奨励しています。ここから導かれる教訓は、土地の所有権の問題と外国企業の農業投資を促すことを切り離して考えることです。
「活かす」規制
念のために補足すれば、外国の土地を買収しているのは中国だけではありません。オーストラリアの場合も、英国企業は中国企業を上回る1640万ヘクタールの農地を保有しています。中国はグローバルな土地買収の「主役」の一人ではあっても、同様の国は数多くあり、そのなかで中国企業だけ規制することはほぼ不可能です。
限界集落が増え、無為に朽ち果てる土地が各地に広がる状況をみれば、外国企業に投資のインセンティブを提供しつつ、日本の死活的利益を脅かさない形でこれを管理する体制を築くこと(例えば免税措置と抱き合わせの土地リースなど)も一つの選択肢になり得るでしょう。言い換えるなら、日本の農地に必要なのは「ただリスクを恐れたり、好悪の感情にまかせたりした排除のための規制」ではなく、「リスクと利益を勘案した合理的な判断に基づく、利益を確保するための規制」といえます。
その場合、大前提として全体の状況把握と、過度の投資流入を防ぐための所有ルールの検討が不可欠といえます。しかし、この点に関して農林水産省は、良くも悪くも現状追認以上のスタンスを示していません。農地買収の波が本格的に押し寄せてから右往左往するのではなく、その前に方向性を決める必要があるといえるでしょう。
【関連記事】Yahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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