危険度を増す「米中ロ」の勢力圏争い──21世紀版グレートゲームの構図
共に独裁色を強めるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席 Mikhail Klimentyev/Kremlin/REUTERS
<トランプ、習近平、プーチン──3人とも外国への不信感を隠さず、外部からの批判は意に介さず、敵を排除して権力を集中させることを厭わない。21世紀のこの時期にこの3人が大国のリーダーとして顔をそろえた歴史的な意味は何か>
2018年は米中ロで権力者がそれまで以上に権力を集中させる転機になっています。中国では3月に習近平体制の延長を念頭に国家主席の任期が撤廃され、同月ロシアでは大統領選挙でプーチン氏が圧勝。米国では「穏健派」ティラーソン国務長官が解任され、トランプ大統領が異論を認めない傾向をさらに強めています。
強引なまでのリーダーシップのもと、米国は自ら作り上げた自由貿易体制から撤退し始めるなど、これまで以上に一国主義的な姿勢を強め、中ロは時に歩調を合わせながらも、基本的にはそれぞれ米国への挑戦を強めています。これら三大国は勢力圏の確立にしのぎを削っており、その様は19~20世紀初頭にかけて英ロが覇権を争った「グレートゲーム」を想い起こさせます。ただし、21世紀の米中ロ版グレートゲームは、オリジナル版と比べてその規模においてはるかに大きく、より複雑で、しかも決着がつきにくいものといえます。
グレートゲームの三要素
オリジナル版のグレートゲームは、帝国主義のもと、中央アジアをめぐって英国とロシア帝国が対立した様を指します。この争いはその後、オスマン帝国の支配するバルカン半島や極東にまで波及しました。
一方、現在のグレートゲームは、米中ロの三カ国が世界全体での勢力圏を争うものです。基本的な条件の違いはあるものの、二つのグレートゲームは、経済的利益を最大化しようとする大国同士のレースで、これが他の地域にまで影響を及ぼす点で同じです。
二つのグレートゲームに共通する要素として、貿易、ナショナリズム、戦争があげられます。
このうち、貿易はグレートゲームの原動力とも呼べるものです。軍拡や派手な外交対決に目を奪われがちですが、冷戦期と異なり米中ロはイデオロギー的な優位の確立よりむしろ経済圏の確保を主な目的にしています。
原動力としての貿易
オリジナル版の時代、イギリスの最も重要な植民地はインドでした。一方、ロシアは18世紀以降、一年中利用できる港を求めて南下。世界のほとんどが分割され、植民地候補となる土地が残り少なくなるなか、イギリスのインド経営とロシアの南下政策はインドの北方にあたる中央アジアで衝突したのです。
現代では植民地支配は禁じられ、自由貿易がスタンダードになっています。しかし、2008年のリーマンショックの後、手堅い利益を求める気運の高まりとともに、米中ロは経済圏の拡張より確保に転換。例えば米国の場合、トランプ政権が鉄鋼・アルミ関税引き上げを決定しながらも友好国をその対象から免除することを匂わせることは、いわば政治的に近い国との経済関係を優先させ、「関税免除」を盾にそれらの国に対する米国の影響力を強めようとするものです。
これに対して、習近平体制の自由貿易協定(FTA)に基づく「一帯一路」構想は、むしろ自由な取引を通じて沿線の各国を中国経済の引力圏に囲い込み、これをもって中国の政治的影響力に転化させようとするものです。両者の手法は異なるものの、自国を中心とする貿易網を確たるものにしようとする点で同じです。
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