コラム

「対アフリカ援助で中国と協力する」日本提案の損得

2018年01月15日(月)18時30分

中国の投資で建設されたケニアの長距離鉄道(2017年5月31日) Thomas Mukoya-REUTERS

<アフリカでの開発プロジェクトで協力しようと中国を誘った狙いは、日本が負け続けてきたアフリカ向け援助競争に歯止めをかけること。果たしてうまくいくのか>

2017年12月31日付けの読売新聞は外務省関係者の証言として、「日本政府が中国にアフリカにおける開発プロジェクトへの参入を呼びかける方針」と報じました。同紙はその背景として、「日本が中国の経済圏『一帯一路』構想に協力することによって北朝鮮の核・ミサイル問題で中国の協力を引き出すこと」を指摘しています。

ただし、この指摘には欠けている部分があります。日本政府が今回の協力を提案した直接的なきっかけが「北朝鮮」で、政府内で浮上する対中関係改善論に基づく「一帯一路への参加」がこれを後押ししたとしても、そこには援助の文脈で日本にとっての必要性があったことも無視できません。つまり、日本が中国との協力を模索することは「アフリカ向けの援助競争にブレーキをかけてお互いに利益を確保する」ことにつながるといえます。

アフリカをめぐる日中対立

ここで大前提として確認すべきことは、「貧困国のため」という人道的観点があるとしても、開発協力の多くが各国政府の予算から支出される以上、その良し悪しにかかわらず政治と無縁でないことです。

日本も例外でなく、日本が主催する東京アフリカ開発会議(TICAD)では1992年の第1回以来、日本の常任理事国入りを念頭に置いた「国連安保理改革」が共同声明などに盛り込まれてきました。国連改革には加盟国全体の3分の2の支持を取り付ける必要があり、常任理事国入りを目指す日本政府にとって、国連加盟国193ヵ国中54ヵ国を占めるアフリカは重要な「票田」。これは資源調達などとともに、日本政府がアフリカ向け援助を増やす大きな要因となってきました。

ところが、この日本政府にとって大きなカベとなってきたのが中国でした。天然資源の価格が高騰した2000年代以来、各国はアフリカへの進出を加速させてきました。なかでもアフリカ向け投資、貿易、援助などの規模とスピードにおいて、中国のそれは圧倒的。IMFの統計によると、中国のサハラ以南アフリカ向け輸出額は2000年に約33億6977万ドルでしたが、2016年には648億6553万ドルに急伸。一方、同時期の輸入額は45億8987万ドルから535億2400万ドルにまで増加しており、輸出入ともに中国はアフリカにとって(EUを除き)国単位で最大のパートナーとなっています。そこには資源の調達や市場の開拓、さらに国際的な支持基盤の確保といった目的があるとみられます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議

ワールド

米、中国軍事演習を批判 台湾海峡の一方的な現状変更
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story