コラム

FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

2024年06月14日(金)12時10分
FRBパウエル議長

FRB(連邦準備制度理事会)は、6月12日、政策金利を据え置くことを決定した......FRBパウエル議長 Graeme Jennings/REUTERS

<FRBは22年から金融引締めを継続してきたが、24年9月から金融緩和に転じるとみられる。歴史的な円安という日本経済にとって大きな追い風がやむ時期は着実に近づいている......>

5月GW後に本邦通貨当局が約10兆円規模の円買い介入を行ってから、為替市場においてドル円は1ドル150円台半ばで方向感なく推移している。この期間、ドル円の変動の主な材料になっているのは、米国の経済インフレ指標、そしてFRB(連邦準備理事会)の政策に対する思惑である。

ドル高円安トレンドが転換点を迎えつつ

後述するとおり、米国の要因を踏まえれば22年3月から続いたドル高円安トレンドが転換点を迎えつつある、と筆者は考えている。6月12日に、米国では5月CPI(消費者物価)とFOMC(連邦公開市場委員会)の重要イベントが重なり、それぞれのイベントをうけて米長期金利とともに、為替市場ではドル円が大きく動いた。

まず、12日米国時間の朝方に発表された、米5月CPIコアは前月比+0.2%と事前予想(同+0.3%)を下回ったが、小数点第2位では前月比+0.16%と、21年8月以来のかなり低い伸びである。内訳をみると、財価格は前月対比ほぼ横ばいが続き、更に先月まで高い伸びだった「家賃を除くサービス価格」が前月対比で小幅ながらも低下しており、これがインフレ率全体を押し下げた。

 
 

インフレ指標は単月で振れる部分もあるが、24年初に懸念された高インフレは一時的であり、米国では労働市場が安定する中で、インフレ圧力が落ち着きつつあることを示している。FRBの早期利下げ期待が強まり、米金利低下とともに1ドル157.2円付近から一時155.8円までドル安に動いた。

FRBメンバーがややタカ派化している

その後、12日午後に結果が判明したFOMCでは、予想通り政策金利は据え置かれたが、24年末の政策金利想定が5.1%と24年内の利下げが1回(0.25%)にとどまり、利下げ経路が引き上がっていることが示された。利下げ開始が年末12月にずれ込む可能性が高まり、筆者の現時点想定よりもFRBメンバーがややタカ派化していることを意味する。

実際に、FOMC後に、CPI後に円高に振れたドル円は再び157円付近まで円安ドル高に戻ってしまった。12日のドル円の値動きをみると、CPIがインフレの落ち着きを示しながらも、FRBが利下げ開始に慎重であるため、ドル高円安が今後も長引くことを示唆しているようにみえる。

確かに、FOMCメンバーが示したドットチャートの年内1回利下げとなった点では、FRBはタカ派化した。ただ年内2回の利下げを想定するメンバーが19名中8名と相応の勢力を保っており、この中にはパウエル議長ら主流派が含まれていると推測される。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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