ロシアのウクライナ侵攻と日本経済にとっての真のリスク
経済的な観点で懸念すべき点とは...... REUTERS/Issei Kato
<ロシアによるウクライナへの侵攻が、経済的な観点で日本でもっとも懸念すべき点は何かをあらためて考える.....>
ロシアによるウクライナへの侵攻が現実味を帯びたと報じられた2月11日から、ウクライナ情勢を伝える報道に世界の株式市場は一喜一憂した。事前に軍事侵攻の可能性は低いとの専門家などの見解が目立った中で、事態が深刻化するにつれて金融市場の認識が変わったことが世界的な株安を招いたようにも見える。
ただ、2014年のクリミア半島へのロシアの侵攻から、ウクライナとロシアの領土紛争が続いてきた。ロシアの強硬な政治行動の手段の一つとして、再び軍事侵攻する可能性はありえるだろうと、筆者は予断を持たずに考えていた。もちろん、ウクライナ国民にとっては悲劇でしかないが、米欧の金融市場関係者の多くは同様に認識していた様に思われる。
実際には、ウクライナ情勢を巡る報道が11日以降日増しに増えたので、これらを消化する時間的な余裕がなかった。このため、とりあえずリスク資産である株式をキャッシュ化する動きが強まり、2月11日以降の米国市場を含めた株安を引き起こすきっかけになったのだろう。
FRBによる利上げが米国株下落をもたらす主因になっていた
その後、ブーチン大統領がドネツク人民共和国などの独立承認、ロシア軍の進駐を命じた22日から、金融市場のウクライナ情勢に対する反応はより複雑になった。ロシアによる軍事行動が始まり、それが各国の経済活動に及ぼす影響を考えるフェーズにシフトしたとみられる。
22日に大幅安で始まった欧州株市場は買い戻され小幅高となり、翌23日にほぼ同水準を保った。一方、米国株市場は22日、23日両日ともに大きく下落、ウクライナ情勢への懸念から株価下落が続いたとメディアで解説されている。ただ、米国株の値動きを見ると、バイデン大統領のロシアへの経済制裁、ウクライナ政府がサイバー攻撃を受けた、などの報道が悪材料になったように見えるが、いずれも予想された動きに過ぎないだろう。
また、米国の債券市場では、ウクライナ情勢が緊迫化する中で、24日時点で10年金利はほぼ2%と先週時点と同水準で推移している。ウクライナ情勢への懸念よりも、FRBによる利上げによってハイテク株を中心にバリュエーション調整が起きていることが、米国株下落をもたらす主因になっていると筆者はみている。
23日時点でのS&P500指数終値は、1月3日の高値から約-12%下げた水準まで下落した。筆者は、インフレ沈静化に注力するFRBの利上げで金融環境がタイト化する余地が大きいと従来から考えていたので、ウクライナ情勢の緊迫化がなくても、今起きている程度の米国市場での株安は早晩起きていたとみている。そして、ウクライナへの軍事侵攻が始まった中で、供給制約の緩和を試みるFRBの大幅な利上げを試みる姿勢は変わらないだろう。24日に米国株市場は反発したが、引き続き慎重にみた方が良いだろう。
「日本の購買力」が下がる側面が強調されているが......
ところで、ウクライナ情勢の緊迫化が、日本を含めた世界経済全体に及ぼす波及効果として影響が大きいのは、原油などの資源価格上昇である。国会においても、政府のガソリン価格上昇への対応を巡り質疑が行われている。
ガソリン高に加えて食料品などにも価格が上昇する散見されるなかで、経済メディアなどでは「円の価値」が大きく低下したとの報道が目立っている。BIS(国際決済銀行)が発表している、貿易量と価格変動を調整した実質実効ベースの円の水準が、1972年以来約50年ぶりの水準まで低下しているのだが、最近は、この試算値が発表される度に経済メディアで取り上げられる様になっている。
一般的な「ドル円」と異なる尺度で円の価値を測ることが、ニュース価値があるとメディアが認識しているのかもしれないが、通貨円が「歴史的な水準」まで低下しており、「円の実力」が下がっているなどとメディアでは評されている。ウクライナ情勢の緊迫化で原油価格上昇に対する懸念が高まっているので、「日本の購買力」が下がる側面が強調され、通貨安が日本の貧しさを示唆しているかのように報じられている。
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