コラム

偶然が重なり予想もしない展開へ......圧倒的に面白いコーエン兄弟の『ファーゴ』

2024年11月22日(金)14時15分
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

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<明確な悪人が登場せず、人間の複雑さを見せてくれる『ファーゴ』はテレビシリーズもいい>

公開は1996年。僕がオウム真理教信者のテレビドキュメンタリーを撮り始めた年だ。でも撮影中に放送中止が決まり、僕は制作会社を解雇される。その後も1人で撮り続けたドキュメンタリーは『A』というタイトルを与えられ映画として完成し、僕の肩書に「映画監督」が加わる。つまり激動の年だったはずだ。

でも『ファーゴ』は劇場で観ている。金銭的にも時間的にもそんな余裕があったのかと不思議だけど、大きなスクリーンで観たことは確かだ。


ミネソタ州ミネアポリスの自動車販売店に勤めるジェリーは多額の借金を返すため、妻ジーンを狂言誘拐することを思い付く。義父で販売店社長の裕福なウェイドから8万ドルの身代金をせしめる計画だ。友人から紹介された2人のチンピラに、ジェリーは妻を誘拐してくれと依頼する。

ここまでが導入。その後に思わぬ偶然が重なって、事態は誰も予想しなかった状況へと進んでゆく。

偶然を呼び寄せる要因の1つは、ジェリーも含めて関係者の多くが、物事を深く考えないことだ。これはコーエン兄弟の映画のほとんどに共通する要素だが、登場人物はみなどこかネジが緩んでいる。例外は事件を捜査する警察署長のマージだけ。彼女を演じるのは、その後に『スリー・ビルボード』や『ノマドランド』が話題となったフランシス・マクドーマンド。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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