クズは人の基本型? 姑息で卑小な人間を『競輪上人行状記』は否定しない

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<ひとことで言えば「重喜劇」──高潔なのに卑小、賢いのにバカな主人公は人生にもがきながらどんどん堕(お)ちる。それだけでなく登場人物のほとんどがクズだ。でも映画はそれを肯定する>
これだけ連載が続いた今頃になって書くことではないけれど、どちらかといえば邦画はそれほど観ない。これまでの生涯で観た映画の量としては、圧倒的に洋画が多いはずだ。
でもせっかくこの連載を与えられたのだから、今はできるだけ観るようにしているし、古い記憶を必死に振り絞って書いてもいる。
でも記憶を振り絞ろうにも、邦画が黄金期だった昭和20年代から30年代の映画は、(時おり名画座で特集上映されていた)黒澤明や小津安二郎、成瀬巳喜男などは別にして、ほとんど観ていない。見逃している面白い映画はたくさんあるはずだ。
そう考えて、骨の髄からの映画フリークである脚本家・監督の井上淳一に相談した。
何かおすすめある?
ああ、いくらでもあるよ。
......というわけで今回は、井上淳一おすすめ映画第1弾。そもそも『競輪上人行状記』というタイトルを僕は知らなかった。日活ロマンポルノを代表する西村昭五郎の監督デビュー作で、脚色は大西信行と今村昌平。主演は小沢昭一。脇を固めるのは加藤嘉と南田洋子、加藤武に高橋昌也、小山田宗徳、そして渡辺美佐子。
内容をあえてひとことにすれば、脚色の今村の造語である「重喜劇」だ。ストーリーは競輪で身を持ち崩す僧侶の顚末。テンポは軽妙で速いが、テーマはずっしりと重い。原作者は浄土宗僧侶で作家、競輪愛好家でもあった寺内大吉だから、自身をモチーフにしているのは明らかだ。
何よりも、『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』など鈴木清順監督作品で知られる永塚一栄のカメラワークがすごい。斬新で挑発的なのだ。家出した教え子を単身で捜す熱血教師。葬式仏教を否定して仏道に覚醒したストイックな僧侶。競輪で莫大な借金をつくってヤクザから逃げ回るチンピラ。義姉に欲情しながらかつての教え子を連れて競輪の予想屋となる男──。これが全て一人の男なのだ。とにかく先が読めない。
小沢演じる主人公の春道は、人生にもがきながらどんどん堕(お)ちる。高潔なのに卑小。賢いのにバカだ。飲み屋のチンピラたちから追われる春道が蒸気機関車の煙に消えてゆくショットが、メタフォリカルで素晴らしすぎる。
春道だけではない。弟分の僧侶を演じる高原駿雄や春道を競輪に誘う加藤武、息子の嫁に手を付ける加藤嘉、最後の大ばくちで負けて無理心中を図る渡辺美佐子まで、とにかく登場人物のほとんどがクズだ。