コラム

不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか

2023年10月26日(木)15時17分

一方、1970年代以降、日本国民の住宅事情は格段に改善した。図3では5年に1回ずつ行われる「住宅・土地統計調査」により専用住宅1戸あたりの延べ面積を示しているが、1973年の70平方メートルから2003年には92平方メートルへ増えている。ただし、この間に住宅の数は2倍近くに増えたので、日本の人口に対する住宅の広さはもっと大きく伸びた。住宅の総戸数に1住宅あたりの延べ面積を乗じることで日本の住宅の総面積を計算し、日本の総人口で割ったものを「1人あたり住宅面積」として示したが、1973年の20平方メートルから2003年には39平方メートルと、30年間で2倍近くに増えている。欧米と日本との間の貿易摩擦が激しかった1980年頃、「日本人はウサギ小屋のような狭い部屋に住んでいる」と揶揄されたものだが、その汚名は返上できそうである。

marukawa20231025143904.png

 
 
 
 

ただ、図3からは、1993年以降、住宅面積拡大の勢いが鈍ってきていることもわかる。1950年代から70年代前半までの都市化、そして1970年代前半から90年代までの住宅高度化という2つの波に乗って日本の不動産業は成長を続けてきたが、2つの波が終わった1990年代後半以降、不動産業は低成長に甘んじざるをえなくなった。

ちなみに、以上のような戦後日本の都市化と住宅高度化は、まさに私の両親と私の世代の歩みそのものである。私の両親は1937年に都市に生まれたが、太平洋戦争中に農村に疎開した。そして父は大学に入学するまで、母は結婚するまで農村に暮らした。1963年に結婚した両親は都市郊外の住宅の離れ(1K)を借りるところから始まって1985年までに5回引っ越し、その都度より広く、より条件のよい住宅に移った。つまり、私の両親は1950年代後半から60年代前半に都市化し、60年代から80年代にかけて5度も住宅高度化を行って、日本の不動産業を大いに盛り上げてきた。

一方、私はというと、最初から都市に生まれ、1990年に結婚してアパートを借りたが、1996年に今の家に移り住んで現在に至る。住宅高度化は1回だけなので、日本の不動産業の発展にはあまり貢献していない。なるほど不動産業が伸びなくなるわけである。

中国の不動産業の発展は現時点で終わるはずがない

さて、長々と日本の話をしたのは、中国の不動産業の現在地がどこであるかを判断する手がかりを得るためである。今の中国の位置は、日本の中成長期の始まりだった1974年なのか、それとも「失われた30年」の始まりだった1993年なのか。

まず、中国の都市化はどの程度まで来ているのかを見るために、図4では都市人口比率(「城鎮人口比率」)を示した。ここで示したように中国の都市人口比率は1990年代半ばまで3割以下と、とても低かったが、その後一直線に伸びている。2021年以降はおそらくコロナ禍の影響もあってやや伸びが鈍化したが、2022年時点で65パーセントと、日本の1960年代前半の水準でしかないので、まだ都市化が進む余地は大きい。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story