「レアメタル」は希少という誤解
地球上の存在量が稀だから「レアメタル」だというのはいいとしても、「経済的な理由で抽出困難」という要素が含まれている点がくせものだ。平たく言えば、資源はあっても、わざわざその元素を抽出するコストをかけるには及ばない、ということだ。なぜコストをかけられないかというと、需要が少なくて、抽出するコストに比べて値段が安いからである。
レアアース、ガリウム、ゲルマニウムがまさにこれに該当する。需要量が少ないから数百年分の埋蔵量が手つかずのままなのである。だから、こうした鉱物まで「レアメタル」と呼ぶのは大きな誤解を生む。それらは一般的な用語法でいうところの希少、すなわち需要に比べて供給が少ないわけではない。逆に、潜在的な供給可能性に比べて需要が極端に少ないのである。つまり、やや大げさに言えば、「いらない金属」なのだ。事実、欧米ではこれらの金属を「マイナーメタル」とか「スペシャリティーメタル」と呼ぶことが多いという(中村、2009)。
産地が偏るのは需要が少ないから
そして、需要量が少ないからこそ、特定国に生産が偏りがちになるのである。そのことは経済学における差額地代論を知っている人には理解しやすいであろう。ある種の鉱物は世界のいろいろな国で産出できるが、採掘にかかるコストは国によって異なるとしよう。その鉱物に対する需要量が小さい時は、採掘コストが最も低い国で生産するだけで世界の需要を十分に満たすことができる。2010年頃に世界のレアアース生産の97%を中国が占め、今日世界のガリウム生産の98%を中国が占めているのは、要するに中国の生産コストが最も低かったためだ。世界の需要量が拡大すれば、一国だけの生産では需要を十分に満たすことができないのでその鉱物の値段が上がり、2番目に生産コストが安い国での生産が始まる。需要量がさらに増えると今度は3番目に生産コストが安い国で生産が始まる。
こうして需要量が増えるにつれ、生産する国の数も増え、最も低コストだった国の市場シェアは下がる。これがまさに過去13年間にレアアースにおいて起きたことである。輸出量を制限して独占力を行使しようとした中国の企みは失敗し、中国の世界シェアは下がったが、それは中国の独占リスクに対処するために他国で生産が進んだというよりも、単に世界のレアアース需要が拡大したため、中国一国だけでは世界の需要を賄いきれなくなったのだ。
つまり、「鉱物資源が偏在している」のは、えてしてその資源に対する需要が少ないからである。そのことを独占力だと勘違いして輸出制限に乗り出す中国のような国も出てくるが、そうなれば必ず他国での生産が立ち上がってくるので、心配するには及ばないのである。
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