コラム

「レアメタル」は希少という誤解

2023年07月25日(火)17時05分

時々、雑誌や本などで「レアメタル争奪戦」といったタイトルが躍るが、その内実は単なる勘違いと、「レアメタル」の利害関係者による意図的な煽りであることが少なくない。だが、「レアメタル」というミスリーディングな用語が使われているため、それが単なる煽りであることを多くの読者は見抜くことができない。もしこれが「マイナーメタル争奪戦」だとか「いらない金属争奪戦」というタイトルであれば、そのタイトルに含まれる矛盾に多くの人が気づくであろう。いらない金属をめぐって争っていったいどうするんだ。

もちろん「レアメタル」に分類されている金属のなかには本当に希少なものもある。例えばプラチナ(Pt)は地殻のなかに0.005PPMしか含まれていない。プラチナと一緒の鉱石に含まれているパラジウム(Pd)も希少で、0.015PPMしかない。金(Au)や銀(Ag)は人類が昔から使ってきたという理由で、レアメタルではなく「コモンメタル」に分類されているが、それらも当然希少であり、地殻中の存在度はそれぞれ0.004PPMと0.075PPMである。一方、今回中国が輸出規制を始めたガリウムは地殻中に19PPMもある。つまり、金の5000倍もの資源量があるのだ。

それなのに、金は年に3100トン生産されているのに対してガリウムの生産量は550トンにすぎない。このまま行くと金はあと20年も経たないうちに枯渇してしまうが、ガリウムは無尽蔵だ。

このように、31種の「レアメタル」元素のなかには本当に資源が希少なものあれば、需要量が少なくて資源が無尽蔵なものも含まれている。各元素がそのどちらに属するかをみるために図を作成した。

230725chartmarukawa (1).jpg

この図では横軸で各元素が地殻のなかにどれだけ含まれているかを示しており、縦軸で各元素の年間生産量を示している。

図の中の丸い点で示されている元素が「レアメタル」であり、四角い点は「コモンメタル」、三角はそれ以外を示している。

図の中に斜めに線を引いたが、この線より上にあるのは資源の存在度に比べて生産量が相対的に多い。そうした元素としてコモンメタルのなかでも銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、そしてレアメタルのうちクロム(Cr)、ボロン(B)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、そして金や銀、プラチナなどがある。特に「資源が希少な金属」という楕円で囲んだものは、地殻のなかの存在度は0.2PPM以下と少ないが、生産量はわりに多く、本当に希少な金属だといえる。

一方、線より下にある元素は資源が多い割にそれほど使われていないことを意味する。こちらの領域にはレアアース(RE)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、タリウム(Tl)、ベリリウム(Be)、イットリウム(Y)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、チタン(Ti)といった「レアメタル」、およびマグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)などが含まれる。通産省鉱業審議会が選んだ「レアメタル」31種のうち14種がこちらの領域に属している。つまり、「レアメタル」のうち半分近くは、実は需要量が少ないわりに資源が豊富な元素なのだ。こうした資源をめぐる「争奪戦」が起きる理由はないのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story