「レアメタル」は希少という誤解
中国が8月1日より輸出規制を強めると発表したガリウムとゲルマニウムがその典型である。ガリウムはレアメタルの一種だとされているが、2022年の生産量は550トンだったのに対して、その資源量はボーキサイトに付着している分が100万トン以上、亜鉛に付着している分もかなりあるという(USGC, 2023)。ボーキサイトや亜鉛についているガリウムのうち実際に回収できるのは10%以下とされているものの、それでも優に200年分であり、ほぼ無尽蔵といってよいであろう。また、ゲルマニウムも亜鉛などと一緒に採取できるほか、石炭を燃やした灰や煤からも採取でき、その資源量は特に調べるまでもないほど豊富なようだ。
貿易戦の「武器」にしたのは中国の勘違い
ところが、ガリウムでは中国が世界生産の98%を占め、ゲルマニウムでは中国が7割近くを占めている。そのため、中国政府はこれらの鉱物の輸出を制限すればアメリカなどに対抗する「武器」にできると勘違いしたのであろう。だが、しょせんどちらも無尽蔵にある資源なので、仮に中国が輸出を全面的に停止するとしても、短期的な価格上昇ぐらいはあるかもしれないが、やがて他の国での生産が拡大し、中国の世界シェアが下がるだけの結果となろう。
ただ、今回の中国の措置がアメリカや日本による半導体製造装置の輸出規制に対抗するためのものだとすれば、もしそれに効果がないとなると、中国は次の一手を繰り出してくることが予想される。そうした展開を回避するには、ガリウムとゲルマニウムが中国から輸出されなくなるととても困る、と中国に抗議しておいた方がよいかもしれない。
そもそもレアアース、ガリウム、ゲルマニウムは資源が無尽蔵なのになぜ「レアメタル」とされているのか。
実は、「レアメタル」という用語は日本独自のものであり、1984年に通産省の鉱業審議会レアメタル総合対策小委員会が31種類の鉱物を「レアメタル」に指定した(原田、2009)。いかなる基準でその31種類が指定されたかというと、「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるもの」(経済産業省、2014)を選んだのだそうである。また、「鉱物資源が偏在している金属」が選ばれたのだ、と説明している本もある(田中、2011)。
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