コラム

中国「ガリウムとゲルマニウム」輸出規制の影響は?

2023年07月12日(水)15時31分

実は、中国以外にも多くの国がガリウムの生産能力を持っているのだが、中国から安く輸入できるためあまり生産していないのだ。米地質調査所の推計によれば、2022年時点のガリウム生産能力は韓国が16トン、日本が10トン、ロシアが10トン、ウクライナが15トン、さらにドイツ、ハンガリー、カザフスタンが合わせて73トンであった(U.S. Geological Survey, 2023)。

2021年の日本のガリウム生産量は3トンで、中国からの輸入量は19.5トンだったと推計される(注3)ので、もし国内の生産能力(10トン)をフルに稼働させれば、仮に中国からの輸入が3割以上減らされても国内の供給量を減らさずに済む。

もともとガリウムはボーキサイトからアルミを精錬する際の副産物として、また亜鉛を作った際の残滓として生成する。中国が世界のガリウム生産のほとんどを占めているのは、何も中国国内の資源が豊富だからというのではなく、中国が世界一のアルミ生産国であることに由来する。従ってアルミの他の主要生産国(インド、ロシア、カナダなど)も条件が整えばガリウム生産国になる可能性がある。

他の国でも生産できる

このように、もし中国がガリウムの輸出規制を強めて輸出量を減らすようであれば、他の国でのガリウム生産が活発化し、中国は独占的供給国としての地位を失うであろう。そうなれば中国の潜在的敵対国による軍備増強を食い止めるという輸出規制の本来の目的も掘り崩され、単に中国が自分で自分の首を絞めているのみ、ということになる。

つまり、理性的に考えるならば、中国当局が輸出量の減少を招くような厳しい制限を行えば、まず自国が損をすることがわかる。また、これまでガリウムを中国から輸入してきた他国もより高コストのガリウムを利用せざるを得なくなって損をする。つまり誰にとってもいいことはないし、それによって中国にとっての軍事的脅威が取り除かれるかというと甚だ疑問である。

おそらく中国はガリウムとゲルマニウムの輸出が自国の安全保障を脅かすと本気に心配しているのではないだろう。今回の規制導入の真の狙いは、一つにはアメリカの包囲攻撃に対して無策であることに対する国内の不満に対して何かやっているポーズを見せること、もう一つはガリウムとゲルマニウムに対する輸出規制の緩和を交換条件として、アメリカなどによる先端半導体製造設備の輸出規制を緩めさせることであろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story