コラム

中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来

2022年11月18日(金)16時23分

胡錦涛が大会に対して不満を持った理由はよくわかる。大会後に公表された習近平の演説原稿を見ると、そのなかで前任者の治世を徹底して貶めていたからである。その部分は大会では読み上げられなかったらしいが、次のような厳しい調子であった。

「10年前、中国共産党のなかでは、党が国家の一切を指導していくんだという気概に欠けている人たちがいた。そのため、党の指導力が弱かった。党内には、党の理念に対する信念が揺れ動いている人たちもいて、そういう人たちは形式主義や官僚主義、さらには享楽や贅沢に走っていて、自分たちには特権があると思っていた。一方、経済の構造的な矛盾も激しく、発展が不均衡でうまくかみ合わず、それまでの体制では持続性がなかった。中国の政治制度に自信を持っていない指導者もいて、法があっても従わず、法の執行が厳格ではないという問題があった。拝金主義、享楽主義、極度の個人主義、歴史虚無主義といった誤った思潮がネット上などではびこっていた。」

経済政策の背景に政治闘争

この激しい非難と、大会での胡錦涛の退去劇、胡春華の降格、李克強や汪洋の早すぎる引退とを合わせて考えると、習近平には胡錦涛やそれに連なる政治家たちを排除する明確な意志があったと考えられる。

そうなると、2012年に始まった10年間の習近平の治世も、政治闘争という側面から見直す必要があることを今さらながら痛感している。

習近平の時代、特にその前半においては、中国共産党の政策は玉虫色で両論併記的なことが常であった。その典型が2013年11月の中国共産党中央委員会総会における「改革の全面的深化に関する決議」である。

この決議は胡錦涛時代10年間の国有企業改革の停滞を打破する画期的な内容を含んでいた。国有企業に民間資本を導入することを意味する「混合所有制改革」が初めて提起され、その後実際にほとんどの国有企業で混合所有制が実施された。国有企業は工場などの事業を自ら運営するのはやめて、工場などは売り払い、シンガポールのテマセクのようなソブリン投資ファンドに転換すべきだ、と解釈できる文言も織り込まれていた。

このようにこの決議は、国有企業の民営化を推進すべきだと考える人々の主張に沿った解釈が可能であったが、同時に国有企業を強化すべきだと考える人も自らの考えに沿った文言を見つけることができた。そうした玉虫色の性格をよく表しているのが次の文章である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story