コラム

中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来

2022年11月18日(金)16時23分

「少しもブレることなく公有制経済を強固にし、発展させ、公有制を主体とする方針を堅持し、国有経済の主導的役割を発揮させ、国有経済の活力、支配力、影響力を不断に強める。少しもブレることなく非公有経済の奨励、支援、誘導し、非公有経済の活力と創造力を刺激する。」なお、「非公有経済」とは民間企業のことを指す。

その後の実際の政策も「両論併記的」に進んでいった。一方では、李克強首相が2014年に「大衆創業、万衆創新」のスローガンを打ち出し、民間のベンチャー企業やベンチャーキャピタルが活発化し、多数のユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)が誕生した。他方では、半導体などへの国策投資ファンドが作られたり、国有企業同士の大型合併を通じて独占力を高めようとする試みが行われた。

だが、2019年あたりから両論併記というよりも、国有企業の強化、民間企業の抑制という方向に政策が傾いてきた。そのことを示すのが2019年10月の中央委員会総会における「中国の特色を持った社会主義制度のもとでの国家ガバナンス体系とガバナンス能力強化に関する決定」である。そのなかで、「少しもブレることなく...」という2013年の玉虫色の文章が繰り返されているのであるが、「国有企業の競争力、イノベーション力、支配力、影響力、リスク対応力を高め、国有資本を大きく強くする」とも書かれているのである。つまり、以前にはなかった「イノベーション力」「リスク対応力」という言葉が付け加わっている。

アントの上場に直前で待った

微妙な変化ではあるが、2013年から2019年の間にあったことを考えるとなかなか意味深長である。すなわち、2017年に発足したアメリカのトランプ政権が中国の一部のハイテク企業を敵視するようになり、半導体やソフトの輸出を制限するようになった。その結果、工場の操業停止や市場シェアの急落に見舞われる中国企業が出てきた。こうした状況を踏まえて、国有企業の力を利用して半導体やソフトを国産化しておけばこんなことにならなかったはずだ、という議論が共産党のなかで高まったことは想像に難くない。

さらに、2020年秋以降、社会の中で大きな力を持つようになった民間企業に対する締め付けが強まった。まず、2020年11月にネット小売大手アリババの子会社であるアント・フィナンシャルが香港と上海の証券取引所に株を上場しようする直前に、アントが担っているネット上の金融仲介事業に対する規制が強化され、そのためアントの上場が無期限延期となった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベトナム、26年は10%成長目標に 外的圧力でも勢

ワールド

高市氏に1回目から投票、閣外協力「逃げ」でない=維

ビジネス

中国GDP、第3四半期は前年比+4.8% 1年ぶり

ワールド

トランプ氏「大規模」関税続くとインドに警告、ロ産原
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story