コラム

中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来

2022年11月18日(金)16時23分

2021年4 月にはアリババが独占禁止法に違反したとして182億元もの巨額な罰金を科された。さらに、2021年7 月にはライドシェア・サイト大手の滴滴出行が突然アプリの配布を禁じられた。滴滴はその数日前にニューヨーク証券取引所に株を上場したばかりであった。同社は中国国内での人々の移動に関する情報を大量に処理していたが、そうした企業がニューヨークに上場すると「外資企業」になり、国内の情報流出の危険が生じた、というのが停止の理由であったとみられる。また、2021年8 月より、義務教育段階の子供を対象とする学習塾を営利企業が経営してはならないとする規制強化が行われた。この規制強化は教育費の負担や学習の負担の軽減が目的だとされる。

以上挙げた規制強化はそれぞれ別の理由があるが、有力な民間企業がこうも立て続けに規制強化の対象となるとなれば、この底流には民間企業の成長を抑制しようという意図があるとの疑いが浮上する。実際、2021年12月の中央経済工作会議の決議の中にそうした底流の存在を感じさせる文言が含まれた。すなわち、「資本には積極的な作用は果たせなければならないが、同時にその消極的作用を有効にコントロールすべきである、資本に対して交通信号を設け、資本に対して有効な監督をし、資本の野蛮な成長を防止しなければならない」という一文である。ここでいう「資本」は民間企業を指しており、それらが社会の中で大きな力を持っている現状を「野蛮な成長」だと否定的に評価しているのである。

「李克強印」の政策は排除された

このように、2013年から2019年夏までは国有企業も民間企業も両方とも発展させましょう、という両論併記的な政策だったのが、2019年秋からにわかに国有企業強化・民間企業抑制に転換してきている。それは要するに、最高指導部のなかで習近平派が優勢を占め、李克強など共青団派が排除されるプロセスでもあったということが今回の大会で明らかになったといえる。

では習近平派で固めた中国共産党指導部は今後どのような政策を展開していくのだろうか。習近平演説から読み解いていこう。

まず確認しておきたいのは、「社会主義市場経済への改革方向と高水準の対外開放を堅持する」「市場の資源配分における決定的役割を発揮させる」「国有資本、国有企業の改革を深化させる」という文言が入っており、改革開放政策は大枠では維持されていることである。だが、「大衆創新、万衆創新」や「衆創空間(コワーキング・スペース)」といった言葉は演説のなかに入っていないし、国有企業を改組した投資ファンドを意味する「国有資本投資会社」という言葉も入っていない。「李克強印」の政策が排除されており、民間企業育成の動きは弱まるであろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story