コラム

中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来

2022年11月18日(金)16時23分

また、「強国」という言葉や「安全」という言葉をやたらと乱発しているのも特徴である。「強国」の方は今回の演説に始まったことではないし、「教育強国」とか「スポーツ強国」といったような平和な内容も多く含んでいるので、さほど気にならないが、「安全」の乱発の方は今回の演説で特に目立つ。すなわち、「人民安全、政治安全、経済安全、軍事・科技・文化・社会の安全、国際安全、外部安全、内部安全、国土安全、国民安全、伝統安全、非伝統安全、自身の安全、共同の安全、国家政権安全、制度安全、イデオロギー安全、食糧・エネルギー・重要なサプライチェーンの安全、食品薬品安全、バイオ安全...」といった具合である。

背筋が凍る「文化・社会の安全」

日本で「安全」というと、多くの場合はセーフティーを意味するのでそれほど怖いイメージはないが、中国で安全というと、諜報活動や外国スパイの取締りを行う「国家安全部」が想起され、より安全保障(security)のニュアンスが強い。国土や経済の安全だけならまだしも、「文化や社会の安全」にまで言及しているのには背筋が凍る思いがする。異端の文化が公安警察によって抑圧されたり、社会の安定を乱すとされた人が拘束されるといった寒々とした将来を暗示している。「イデオロギー安全」という言葉は、党の公式イデオロギーと異なる思想を持つ人は国家の安全を脅かすとして統制されることを正当化するのに使われそうである。

このように、習近平演説から読み取れる中国の将来とは、これまで中国経済の活力をもたらしてきた民間企業が沈滞し、「国家の安全」を大義名分として思想や文化や社会の自由が奪われた世界である。

ただ、とても地味ではあるが、演説のなかの次の文言に私は注目した。「中低所得層の要素収入をさまざまなルートを通じて増やし、都市・農村住民の資産収入を増やす」

社会主義の大原則は「労働に応じた分配」であるが、ここで述べられているのは、庶民の労働所得(賃金)以外の収入を増やそうということである。例えば、株や投資信託に投資して配当をもらったり、農民が土地を又貸しして地代を受け取るといったことが含意されている。とりわけ、「資産収入を増やす」という点は、わが岸田政権の「資産所得倍増」と期せずして同じ方針を打ち出しているのである。

配当や地代といった資産所得はもちろん資本市場や土地市場があってこそ生まれる。これらを増やそうというのだから、市場経済化の方向を逆転させるようなことはないだろう。


プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story