中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来
また、「強国」という言葉や「安全」という言葉をやたらと乱発しているのも特徴である。「強国」の方は今回の演説に始まったことではないし、「教育強国」とか「スポーツ強国」といったような平和な内容も多く含んでいるので、さほど気にならないが、「安全」の乱発の方は今回の演説で特に目立つ。すなわち、「人民安全、政治安全、経済安全、軍事・科技・文化・社会の安全、国際安全、外部安全、内部安全、国土安全、国民安全、伝統安全、非伝統安全、自身の安全、共同の安全、国家政権安全、制度安全、イデオロギー安全、食糧・エネルギー・重要なサプライチェーンの安全、食品薬品安全、バイオ安全...」といった具合である。
背筋が凍る「文化・社会の安全」
日本で「安全」というと、多くの場合はセーフティーを意味するのでそれほど怖いイメージはないが、中国で安全というと、諜報活動や外国スパイの取締りを行う「国家安全部」が想起され、より安全保障(security)のニュアンスが強い。国土や経済の安全だけならまだしも、「文化や社会の安全」にまで言及しているのには背筋が凍る思いがする。異端の文化が公安警察によって抑圧されたり、社会の安定を乱すとされた人が拘束されるといった寒々とした将来を暗示している。「イデオロギー安全」という言葉は、党の公式イデオロギーと異なる思想を持つ人は国家の安全を脅かすとして統制されることを正当化するのに使われそうである。
このように、習近平演説から読み取れる中国の将来とは、これまで中国経済の活力をもたらしてきた民間企業が沈滞し、「国家の安全」を大義名分として思想や文化や社会の自由が奪われた世界である。
ただ、とても地味ではあるが、演説のなかの次の文言に私は注目した。「中低所得層の要素収入をさまざまなルートを通じて増やし、都市・農村住民の資産収入を増やす」
社会主義の大原則は「労働に応じた分配」であるが、ここで述べられているのは、庶民の労働所得(賃金)以外の収入を増やそうということである。例えば、株や投資信託に投資して配当をもらったり、農民が土地を又貸しして地代を受け取るといったことが含意されている。とりわけ、「資産収入を増やす」という点は、わが岸田政権の「資産所得倍増」と期せずして同じ方針を打ち出しているのである。
配当や地代といった資産所得はもちろん資本市場や土地市場があってこそ生まれる。これらを増やそうというのだから、市場経済化の方向を逆転させるようなことはないだろう。
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